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1 創造性の発揮と必要な力
(1)誰にでも音楽をつくるチャンス
① シンセサイザーで創る新しい世界の音楽
今から40年ほど前の1977年。冨田勲氏がグスタブ・ホルストの組曲「惑星」を発表しました。
シンセサイザー用に編曲・演奏したものです。
それまでは,オーケストラが組曲「惑星」を演奏していました。
富田氏が深みと広がりのある音で作曲し公表したことで,シンセサイザーによる新しい音楽の世界が拓きました。
その魅力ある音楽を作り出した楽器である道具は,モーグ・シンセサイザー(モーグIII-P)という高価なシンセサイザーでした。
「モーグには説明書が付属していなかったので,使い方が全くわからずに苦戦し,『高いだけの鉄くずを買ってしまった』と後悔している。
その後,自宅にマルチトラックレコーダーも備える電子音楽スタジオを設置し,電子音による管弦楽曲の再現を試行錯誤しながら,数々の作品を作曲・編曲した。
この時期から映像音楽作品にもシンセサウンドを多く用い始めた。」
wikipedia「冨田勲」最終更新 2017年4月23日 (日) [ONLINE] https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%86%A8%E7%94%B0%E5%8B%B2(2017/03/01)
当初は使い方が分からず単なる箱でしたが,シンセサイザーの働きが見えてきてノウハウを開発し,すばらしい音楽を創造できるようになりました。
その後,イエロー・マジック・オーケストラ作曲のライディーンがヒット。
以来,技術は進み,シンセサイザーを用いた音楽家や作曲家の創作活動は,広がりや深みを増してきました。
今では,音楽ソフトが充実し,多くの人に作曲のチャンスが与えられるようになりました。
② 誰もが作曲の面白さを知るチャンス
そうなると子どもにもチャンスです。
子どもが曲を作る楽しさを味わうチャンスです。
学校では,初歩ですが作曲の学習内容があります
筆者のように,リコーダーから音を出すのがやっとの子どもは,曲の演奏ができるには時間がかかります。
作曲ならなおさらです。
リズムは何とかつくれても,リコーダーでの曲づくりはハードルが高い。
しかし,AppleのGarageBandのような作曲ソフトを使えば,可能性は大きく広がります。
GarageBandは,小節をドラッグアンドドロップして並べるだけで曲がつくれます。
iPadでは,タップして選択するだけです。
これがまた実に面白い。いろいろ試せます。
音を重ねる楽しさ,音楽の厚みが出る実感を楽しめるのです。
このリズムで,このメロディーなら,どんな曲になるのか。
楽しい試行錯誤の時間を過ごせます。
助かるのが,どのフレーズをいつ選んでも,音楽としてきちんと合うタイミングでアプリが音を重ねてくれることです。
これなら,難しいことを考えずに,自分の好みの曲が作れそうです。
そういう気にさせてくれる作曲ソフトです。
音の部品を並べれば,オリジナル曲の誕生です。
しばらく前は,作曲というのは,専門家の世界の話でした。
遥か雲の上の世界の話と考えていました。筆者だけかもしれませんが。
高性能なタブレット端末の登場で,音楽の創作環境が,ごく簡単に手に入るようになりました。
誰もが,作曲家になれるチャンスが得られるようになりました。
(2)誰にでも絵に表現できるチャンス
① 画家の創造活動を支えるタブレット端末
今では,タブレット端末で絵を描く画家が,増えているそうです。
ある画家の話です。
絵の具などの画材は高価で,必要なものを揃えるのにかなりの費用がかかるそうです。
しかし,高性能なタブレット端末の登場で,状況は一変しました。
それは,緻密な線が描け,ほぼ無限に色を作り出せる道具です。
しかも持ち運び自由です。
重く大きなキャンバスや画材を持ち運ばなくて良いのです。
ちょっと外に出て,好きな絵を描く。
そんな自由が広がったそうです。
高級な絵の具を使っていた画家が,安価に簡単にどんな色でも出せるソフトを使って絵を創造します。
才能ある画家が,絵を描くことに専念できます。
なんともすばらしい創造的な世界ではないでしょうか。
このことは,子どもにも恩恵を与えます。
② 画用紙に絵を描く学習
学校での絵を描く授業の一場面です。
ある子どもは,画用紙になかなか線を描き始めません。
描く内容は,簡単には決められません。
そもそも,画用紙に描くことに二の足を踏んでいるようです。
いったん描き始めれば,描いたものを描き直すのには手間がかかります。
子どもにとっては,画用紙に描いた線を消しゴムで消すのも大変な作業です。
1分で描いたものを5分かかって消すのはよくあることです。授業の時間はどんどん進みます。
このような状況の子どもにとっては,タブレット端末は画期的な存在です。
画用紙を使った授業では,元に戻すことが難しいからこそ,ものをよく見るようになります。
絵の中にある大事な線が見えてきます。
描き表したいものの大事な線をみつけ,よく見ながら描くようになります。
学校では,「かたつむりの線」として指導することがあります。
その指導を受けた後,子どもの描く絵は,表したいことがよくわかる力強い線の絵となります。
このカタツムリの線の指導では,画用紙に鉛筆で筆圧をかけて描く体験があるからこそ大事な線が実感できます。
だから,画用紙を使った授業は欠かせません。
③ タブレット端末で絵を描く学習
一方,電子端末で絵を描く方法が分かれば,画用紙よりはるかに創造力が発揮されやすくなります。
そして,絵を描くことを繰り返せば,その手順も精選され効率よく描けるようになります。
絵を描く繰り返しができるから,手順を精選することに気付き,大事な作業に重点を置けます。
アイディアスケッチは,何度でも描き直せます。
クロッキーなど線を描いた絵に,色は何度ものせかえられます。様々な色の組み合わせを試せます。
このように創造する作業に時間をかけられます。
描き直したり消したりする作業に,時間をとられることがほとんどありません。
(3)特徴や使い方を知った主体的な活用
このようにタブレット端末の登場は,人が絵を創造するチャンスを大きく広げました。
学校では,今後タブレット端末の導入は避けて通れないでしょう。
一方で,偏った指導は,「タブレットがないので絵が描けない」との声が出ないともかぎりません。
子ども自身がその特徴や効果的な活用方法を知り,主体的に活用できるようにすることが大切です。
そのために,知識技能のみならず考え方や態度の育成を目的として,タブレット端末等の効果的な使い方を図り授業改善を進めていく必要があります。
2 プログラミング教育の必要性
「小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について(議論の取りまとめ)」では,「いわゆる『第4次産業革命』は教育に何をもたらすのか」について,次のように述べられています。
今後の社会の在り方について,とりわけ最近では,「第4次産業革命」ともいわれる,進化した人工知能が様々な判断を行ったり,身近な物の働きがインターネット経由で最適化されたりする時代の到来が,社会の在り方を大きく変えていくとの予測がなされているところである。こうした変化は,様々な課題に新たな解決策を見いだし,新たな価値を創造していく人間の活動を活性化するものであり,私たちの生活に便利さや豊かさをもたらすことが期待されている。
その一方で,“人工知能の進化により人間が活躍できる職業はなくなるのではないか”“今学校で教えていることは時代が変化したら通用しなくなるのではないか”といった不安の声もあり,それを裏付けるような未来予測も多く発表されているところである。教育界には,変化が激しく将来の予測が困難な時代にあっても,子供たちが自信を持って自分の人生を切り拓き,よりよい社会を創り出していくことができるよう,必要な資質・能力をしっかりと育んでいくことが求められている。
学校教育が目指す子供たちの姿と,社会が求める人材像の関係については,長年議論が続けられてきた。現在,社会や産業の構造が変化していく中で,私たち人間に求められるのは,定められた手続を効率的にこなしていくことにとどまらず,自分なりに試行錯誤しながら新たな価値を生み出していくことであるということ,そして,そのためには生きて働く知識を含む,これからの時代に求められる資質・能力を学校教育で育成していくことが重要であるということを,学校と社会とが共通の認識として持つことができる好機にある。
小学校段階における論理的思考力や創造性,問題解決能力等の育成とプログラミング教育に関する有識者会議「小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について(議論の取りまとめ)」平成28年6月16日[ONLINE]http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/122/attach/1372525.htm(2017/05/22)
身近な生活の中でも,コンピューターとプログラミングの働きのよさの恩恵を受けています。
望ましい活用を図るには,プログラミング教育を通して,その働きや使い方などが理解し主体的に活用できるようにすることが必要です。 「プログラミング教育」は,平成32年度(2020年度)から学校教育に導入されます。 |
小学校段階における論理的思考力や創造性,問題解決能力等の育成とプログラミング教育に関する有識者会議「小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について(議論の取りまとめ)」平成28年6月16日, [online]http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/122/attach/1372525.htm(参照2017-3-1)