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1 身につけた力の確実な発揮
将来の予測が困難な時代の中で,これからの子供たちに求められるのは,これまでにないような全く新しい力ということではありません。
従来からも重視されてきている読解力や論理的・創造的思考力,問題解決能力,人間性等です。
これらについて,加速度的に変化する社会の文脈の中での意義を改めて捉え直し,しっかりと発揮できるようにすることであると考えられます。
その基盤として,次期学習指導要領では,「確実に発揮できる」ことが重要視されています。
「確実な発揮」には,これら資質・能力が,より一層生きて働くことが期待されています。
それらの資質・能力を考えるとき,社会の変化に応じて変化したり新しく加わったりする資質・能力があります。
以下,その例を考えます
2 変化する資質・能力
例えば,「読解力」について考えます。
◯ 電話が貴重な時代の読解力
50年ほど前は電話が貴重な時代でした。
その時代では,本の文字と人の表情・生の音声言語に意識を集中していました。
それらで表現され得られた情報を読解する力が必要でした。
電話ついては高価で,家庭に一台あるかないかの時代です。
無駄な内容や不正確な内容の電話の使い方には,家族から指導が入りました。
「長電話をしない」「簡単な用事は電話を使わず直接言って話す」など。
無駄話は,もってのほかでした。
市外局番への電話は,極力避けていました。
公衆電話から市外局番に電話かけると,10円玉が何枚も短時間に落ちたことを覚えています。
このように電話が貴重だったからこそ,電話の情報の質や信頼性は,ある程度保たれていました。
筆者が,遠方に出張する父親からの電話を受けたときは,確実に聞き取り家族に正確に伝えるように指示されたものです。
このころは,遠方への市外電話には,届く音声から地理的な遠さを実感していました。
◯ インターネット普及初期の時代の読解力
通信回線のデータ送信容量が,とても少ない時代でした。
文字(テキスト)は表示できますが,画像は困難でした。
画像をメールに添付して送信することは,マナー違反でした。
画像はデータ量が大きく,通信回線を圧迫するからです。
一方で,長い文章を書くことは可能でした。
まさに,電子の手紙です。
そのような使い方が,できはじめた時代です。
◯ ネットに自由につなげる時代の読解力
固定電話が,家庭にやっと一台の時代の読解力,
携帯電話,そしてスマホが個人に一台の時代の読解力,
これらが,全く同じとは言えないでしょう。
東京に住む人に簡単に連絡が取れ,どこに電話しても料金は変わらない時代です。
心理的な距離感は圧倒的に小さくなりました。
世界で何が起こっているか瞬時に分かります。
SNSであっという間に情報が広がります。情報は多様で多量になっています。
このような時代の読解力の具体は,変わってきています。
ネットがない時代。
近所の壁の落書きは,現場に行ってゴシゴシとタワシでこすれば,何とか消えました。
しかし,SNSでの誹謗中傷そうはいきません。
一度ネット上に上がれば拡散し続け,情報を消し去ることは非常に困難です。
インターネットの情報が表示されている端末の先には,生身の人がいます。
そこに,生きた人の生活があることを想像する力や思いやる心が必要です。
ここに,情報モラルが必要になり,それに基づいて,情報を読み取っていく力が必要になってきます。
3 はがれ落ちない学力,
1999年「分数ができない大学生」岡部 恒治 (編集), 西村 和雄 (編集), 戸瀬 信之 (編集) が発刊され,21世紀の日本が危ないと話題になりました。
その書籍では,少数科目入試がもたらした大学生の学力低下の状況について,学力調査をもとに現在の大学が抱える問題を明らかにし,改善策が提言されました。
筆者が5年ほど前に関わった大学生についても似たような状況が見られました。
ボランティアで小学校2年生の算数の指導に関わってもらうことになりました。
ところが算数の時計の学習で,デジタルの時計を読めるけれど,アナログの時計が読めないと大学生は言うのです。
学校で学んだものは,その場では理解できたり実際に計算できたりしているのですが,その学習を終えてしまうとすっかり学力は剥がれ落ちてしまっているのです。
このようなことから,学校で学んだことがはがれ落ちない学力の育成が課題となりました。
4 確かな学力,活用できる学力
OECDが進めているPISA(Programme for International Student Assessment)と呼ばれる国際的な学習到達度に関する調査に,日本は参加しています。
PISA調査では,15歳児を対象に読解力,数学的リテラシー,科学的リテラシーの三分野について,3年ごとに本調査を実施しています。
国立教育政策研究所「OECD生徒の学習到達度調査(PISA2015)のポイント」P1[ONLINE]http://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/index.html#PISA2015(cf.2017/05/22)
その調査結果について,2003年および2006年の調査結果が低迷し「PISAショック」と言われた時期がありました。
これに結果に対して,PISA型学力の育成が課題となりました。
全国学力学習状況調査では,B問題を解決する力が活用する力として示され,各学校で育成を目指しました。
児童生徒には,知識技能はある程度身に付いてるが,それらを活用することに課題が見られました。
その後,教育政策と学校の取組が奏功し,学力調査結果の改善が見られるようになりました。
PISA2006のポイント【結果概要】
○前回同様,科学的リテラシーは国際的に見て上位,読解力はOECD平均と同程度。○数学的リテラシーはOECD平均より高得点のグループであるものの,平均得点は低下。
○科学への興味・関心や科学の楽しさを感じている生徒の割合が低く,観察・実験など を重視した理科の授業を受けていると認識している生徒の割合が低い
国立教育政策研究所「OECD生徒の学習到達度調査(PISA2006)のポイント 」[ONLINE]http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/gakuryoku-chousa/sonota/07032813/08012901.pdf(cf.2017/05/22)
PISA2015のポイント結果概要
○科学的リテラシー,読解力,数学的リテラシーの各分野において,日本は国際的に見ると引き続き 平均得点が高い上位グループに位置している。一方で,前回調査と比較して,読解力の平均得点が 有意に低下しているが,これについては,コンピュータ使用型調査への移行の影響などが考えられる。
○今回調査の中心分野である科学的リテラシーの平均得点について,三つの科学的能力別に見ると 日本は各能力ともに国際的に上位に位置している。
○生徒の科学に対する態度については,OECD平均と比較すると肯定的な回答をした生徒の割合が依 然として低いものの,例えば自分の将来に理科の学習が役に立つと感じている生徒の割合が2006 年に比べると増加するなどの改善が見られた。
国立教育政策研究所「OECD生徒の学習到達度調査(PISA2015)のポイント」P1[ONLINE]http://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/index.html#PISA2015(cf.2017/05/22)
5 求められる資質・能力
背景となる社会の変化を分析し,それらの資質・能力をとらえ直しその具体を明確にすることが必要です。
これからの時代に求められる資質・能力は,これまでと変わらず「読解力や論理的・創造的思考力,問題解決能力,人間性等」です。
そして,これらの資質・能力を「確実に発揮できる」ことが,これからの時代はより一層求められます。
1 これからの社会で生きていくためには,以下の三つ資質・能力が必要です。
2 その前提として,学校教育等で身に付けた読解力や論理的・創造的思考力,問題解決能力,人間性等を「確実に発揮できる」ようにすることが必要です。 3 このことは,分数ができない大学生が話題となったり,PISAショックが課題となったりするなど,はがれ落ちない学力の育成や確かな学力,活用する力の育成などが課題となったことが背景にあります。 4 求められる資質・能力には,社会の変化とともに変化する部分があります。不易と流行を踏まえて資質・能力の具体を明確にし,それらが確実に発揮できるようにすることが大切です。 |
小学校段階における論理的思考力や創造性,問題解決能力等の育成とプログラミング教育に関する有識者会議「小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について(議論の取りまとめ)」平成28年6月16日, [online]http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/122/attach/1372525.htm(参照2017-3-1)