本稿では,「感性を働かせながら,よりよい社会や人生の在り方について考え,学んだことを生かそうとする態度」の大切さを考えます。 |
1 バランスよい資質・能力の育成
情報化が進展する社会では,次の資質・能力が特に重要です。
- 情報を読み解く
- 情報技術を手段として使いこなしながら,論理的・創造的に思考して課題を発見・解決し,新たな価値を創造する
- 感性を働かせながら,よりよい社会や人生の在り方について考え,学んだことを生かそうとする
情報技術を手段として使いこなしながら,情報を読み解き,論理的・創造的に思考して課題を発見・解決し,新たな価値を創造する。
感性を働かせながら,よりよい社会や人生の在り方について考え,学んだことを生かそうとする。
これらの資質・能力がバランスよく一体となってはたらくことで,子どもは望ましい社会の形成に参画できるようになります。
本稿では,三つ目の「感性を働かせながら,よりよい社会や人生の在り方について考え,学んだことを生かそうとする」資質・能力について考えます。
2 目的に基づく機器や情報の選択と判断
別稿で,情報を読み解く力,情報技術を活用して論理的・創造的に問題解決・価値創造する力について述べてきました。
これらの力は,ある意味では道具です。
道具は目的があって使うもので,目的に応じて使う道具も変わります。
釘を打つには金槌が必要であり,計算するには電卓が便利です。
問題解決のために計算の必要があって,電卓を使うことがあります。
電卓の計算結果を問題解決に役立てるなど,道具の働きを知り使いこなすことで,生活の問題が改善されます。
(1)明確な目的に基づく選択・判断
例えば,パソコンを購入する場面を考えます。
インターネットから必要な情報を収集します。
- OSの違い
- 性能 新型CPU「Kaby Lake」
- 機能 テレビにもつなげる,複数の処理を同時に行えるオクタコア,ワードとエクセルが付いている
- 価格 ピンキリ
- 使い心地 使ってみないと分からない
- サポート体制
- 故障の報告
- 対応の状況など
情報は様々で,苦情の情報が見つかることもあります。
書かれている情報がすべて理解できるとは限らず,理解の難しい情報もあります。
また,比較した情報は,多種多様で信頼性も定かではありません。
調べるほどに,迷いが一層深まることはよくあることです。
そこで大切なのは,そもそも何のためにコンピューターを購入しようとしたのか考えることです。
- 文書作成とインターネットに活用したい。
- コンピューターの初心者なので,サポートを充実してほしい。
- 多機能はいらない。
- 価格は,安い方がよい。
- 壊れにくいものがよい。
このように目的や必要性を具体的に明確にしたり再確認したりすることが大切です。
これにより,重点的な視点として,2「サポート体制」と4「価格」を選択するなど,コンピューターを比較する重点的な視点が明確になることがあります。
(2)よりよい学び
「分数」÷「分数」の計算を考えます。
小学校第6学年では,分数のわり算の仕方は,
「分数のわり算では,わる数の逆数をかけます。」
と学習をまとめます。
この決まりを見いだせば,小学校の計算では,難しい内容と思われる分数のわり算が,いとも簡単に計算できるようになります。
このアルゴリズム(手順)を使えば,九九を学んだ第二学年の子どもであれば機械的に計算して商を求められます。
しかし,どうしてそのような計算ができるのか問うても答えることは困難です。
そもそも分数という数の表記の仕方や意味がよく分かっていません。
意味や理由が分かって計算をすれば,計算の意味やアルゴリズムの考え(問題解決の手続きを一般化する)のよさを味わい,他の場面に活用したり,発展的に考えたりすることができるようになります。
このように,目的や目標に照らして,必要な情報を選択したり情報を総合的に判断したりして問題を解決したり新たな価値を創造したりするなど,知識・技能を活用して調べたり学んだりする力は,明確な望ましい目的や目標をもつことでより発揮されます。
目的や目標のよりよい実現のために,主体的に情報を読み解く力は,情報化社会の鍵を握る重要な資質・能力の一つです。
3 よりよい目的や目標に向かう態度
「情報を読み解く」力などが価値ある目的や目標に向かって発揮されることが,望ましい人生や社会の実現につながります。
価値ある目的や目標をもつためには,真・善・美の観点など,人生や社会にとってより高い価値は何かを考え,望ましい人生像,社会像を理解することが必要です。
子どもは,学校教育で,望ましい人生像,社会像をもったり,実現しようとする意欲や態度をもったりします。その学びを生かして,社会で力を発揮できるようにすることが必要です。
価値ある目的や目標を実現しようとする意欲や態度があってこそ,情報を読み解く力や情報を活用して問題を解決する力が大きな意味をもちます。
新学習指導要領では,資質・能力の三つの柱を立てています。
- 何を理解しているか,何ができるか(知識・技能)
- 理解していること,できることをどう使うか(思考力・判断力・表現力)
- どのように社会・世界と関わり,よりよい人生を送るか(学びに向かう力,人間性等))
知識・技能や思考力等のみならず,「学びに向かう力,人間性等」についても重視し,教育課程全体の中でバランスよく育んでいくことが期待されています。
1 これからの時代に求められる資質・能力の3つ目は,感性を働かせながら,よりよい社会や人生の在り方について考え,学んだことを生かそうとする態度です。
2 それを実現するために,1つ目の情報を読み解く力,2つ目の情報技術を活用して論理的・創造的に問題解決・価値創造する力が必要です。 3 知識・技能や思考力等,学びに向かう力,人間性等をバランス良く育んでいくことが期待されています。 4 よりよい目的や目標に向かって力を発揮しようとする態度があってこそ,充実した人生,創造的な社会の実現につながります。 |
小学校段階における論理的思考力や創造性,問題解決能力等の育成とプログラミング教育に関する有識者会議「小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について(議論の取りまとめ)」平成28年6月16日, [online]http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/122/attach/1372525.htm(参照2017-3-1)