rearrangement-goals
新学習指導要領の資質・能力の3つの柱から,プログラミング教育と情報教育の目標を再整理すると,どのようになるのでしょうか。
それぞれの目標は,3つの柱からおおよそ次のように整理されます。(内容抜粋)

「知識・技能」

  • (情)情報と情報技術を適切に活用する知識と技能
  • (プ)コンピュータの役割や影響の理解

「思考力・判断力・表現力等」

  • (情)問題発見・解決のための情報技術の適切・効果的な活用力
  • (プ)プログラミング的思考

「学びに向かう力・人間性等」

  • (情)情報社会への主体的な参画,発展に寄与しようとする態度
  • (プ)コンピュータの働きをよりよい人生や社会づくりに生かそうとする態度

プログラミング教育で,基盤となるコンピュータの適切な活用を図り,情報教育と合わせて,確かな情報活用能力を発揮できるようにすることがねらいと考えられます。

本稿では,プログラミング教育と情報教育の目標を3つの柱から比較していきます。

1 教育課程の構造化

新学習指導要領の各教科等の目標は,資質・能力に共通する3要素で整理されています。

その整理は,以下の理由から「教育課程の構造化」として整理が図られています。*1

  1. 社会において自立的に生きるために必要な「生きる力」とは何かを資質・能力として具体化する。
  2. 資質・能力を確実に身に付けるため,教育課程の枠組みを分かりやすく再整理する。
  3. 学校教育法との整合性をとる。この三要素は,学校教育法第30条第2項が定める学校教育において重視すべき三要素(「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「主体的に学習に取り組む態度」)とも大きく共通する。
  4. 資質・能力の三つの柱は,国際的にも共有されている。2030年に向けた教育の在り方に関するOECDにおける理念的枠組みや,本年5月に開催されたG7倉敷教育大臣会合における共同宣言に盛り込まれる。

2 資質・能力の三つの柱

全ての教科等や諸課題に関する資質・能力に共通する3要素は,「資質・能力の三つの柱」と呼ばれ以下の通りです。*1

(資質・能力の三つの柱)

①「何を理解しているか,何ができるか(生きて働く「知識・技能」の習得)」

②「理解していること・できることをどう使うか(未知の状況にも対応できる「思考力・判断力・表現力等」の育成)」

③「どのように社会・世界と関わり,よりよい人生を送るか(学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力・人間性等」の涵養)」

そこで,プログラミング教育を考えるにあたり,「資質・能力の三つの柱」から再整理された情報教育とプログラミング教育の目標を比較して考察します。

3 資質・能力の三つの柱に基づく情報教育とプログラミング教育の目標の再整理

資質・能力の3つの柱から,情報教育とプログラミング教育の目標を整理すると以下のようです。*1,2

なお,情報教育については,現行の情報活用能力の3観点8要素を基に,教育課程企画特別部会「論点整理」の方向性も踏まえて,情報活用能力を構成する資質能力のイメージがまとめられています。*1

情報活用能力を構成する資質・能力のイメージ *1 プログラミング教育を通じて目指す育成すべき資質・能力*2
何を理解しているか,何ができるか(生きて働く「知識・技能」の習得)
情報と情報技術を活用した問題の発見・解決等の方法や,情報化の進展が社会の中で果たす役割や影響,情報に関する法・制度やマナー,個人が果たす役割や責任等について情報の科学的な理解に裏打ちされた形で理解し,情報と情報技術を適切に活用するために必要な技能を身に付けていること。

  1. 情報と情報技術を適切に活用するための知識と技能
  2. 情報と情報技術を活用して問題を発見・解決するための方法についての理解
  3. 情報社会の進展とそれが社会に果たす役割と及ぼす影響についての理解
  4. 情報に関する法・制度やマナーの意義と情報社会において個人が果たす役割や責任についての理解
◯ 小学校

身近な生活でコンピュータが活用されていることや,問題の解決には必要な手順があることに気付くこと。

◯ 中学校

社会におけるコンピュータの役割や影響を理解するとともに,簡単なプログラムを作成できるようにすること。

◯ 高等学校

コンピュータの働きを科学的に理解するとともに,実際の問題解決にコンピュータを活用できるようにすること。

 

理解していること・できることをどう使うか(未知の状況にも対応できる「思考力・判断力・表現力等」の育成)
様々な事象を情報とその結びつきの視点から捉え,複数の情報を結びつけて新たな意味を見出す力や,問題の発見・解決等に向けて情報技術を適切かつ効果的に活用する力を身に付けていること。

  1. 様々な事象を情報とその結び付きの視点から捉える力
  2. 問題の発見・解決に向けて情報技術を適切かつ効果的に活用する力(相手や状況に応じて情報を適切に発信したり,発信者の意図を理解したりすることも含む)
  3. 複数の情報を結び付けて新たな意味を見いだしたり,自分の考えを深めたりする力
発達の段階に即して,「プログラミング的思考」を育成すること。

◯ プログラミング的思考とは

自分が意図する一連の活動を実現するために,どのような動きの組合せが必要であり,一つ一つの動きに対応した記号を,どのように組み合わせたらいいのか,記号の組合せをどのように改善していけば,より意図した活動に近づくのか,といったことを論理的に考えていく力

どのように社会・世界と関わり,よりよい人生を送るか(学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力・人間性等」の涵養)
情報や情報技術を適切かつ効果的に活用して情報社会に主体的に参画し,その発展に寄与しようとする態度等を身に付けていること。

  1. 情報を多面的・多角に吟味しその価値を見極めていこうとする態度
  2. 自らの情報活用を振り返り,評価し改善しようとする態度
  3. 情報モラルや情報に対する責任について考え行動しようとする態度
  4. 情報社会に主体的に参画し,その発展に寄与しようとする態度
発達の段階に即して,コンピュータの働きを,よりよい人生や社会づくりに生かそうとする態度を涵養すること。

*1 文部科学省中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ 別紙(1)別紙3-1 情報活用能力を構成する資質・能力  」平成28年8月26日[ONLINE]http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2016/09/09/1377021_2_1.pdf(参照2017/05/10)

*2 文部科学省中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ別紙3-2 小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について (議論の取りまとめ)」平成28年8月26日[ONLINE]http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/004/gaiyou/1377051.htm(参照2017/05/10)

4 考察

情報教育とプログラミング教育の目標を比較すると,次のことが考えられます。

(1)目標や内容の対象の違い

情報教育は情報と情報技術を,プログラミング教育はコンピュータとプログラミングを目標や内容の対象としています。

(2)育成する思考力等の違い

情報教育とプログラミング教育は,ともに普遍的な資質・能力の向上を図ることを目指しています。

情報教育は,情報や情報技術を活用した問題解決力を育成します。

広く汎用度の高い考え方と言えます。

プログラミング教育は,プログラムを作るときに発揮される考え方を一般化したプログラミング的思考を育成します。

情報教育に対して特殊的な考え方と言えます。

(3)プログラミング教育が情報教育を補完する役割

現代では,情報を発信・蓄積する中心が,コンピュータとネットワークです。

情報教育とプログラミング教育を合わせて考えると,

情報が生成・発信・蓄積されるコンピュータやネットワークの働きを理解し,情報を適切によりよく活用できるようにすること

が目標と考えられます。

プログラミング教育で,ネットワーク社会の基盤となるコンピュータの適切な活用を図り,情報教育と合わせて,ネットワーク社会で確かな情報活用能力やプログラミング的思考を発揮できるようにすることがねらいと考えられます。

(4)コンピュータの確かな活用を図るプログラミング教育

人工知能に代表されるコンピュータへの対応が,喫緊の課題の一つとなっています。

コンピュータの重要な働きの一つが制御であり,その制御により人間の生活は支えられています。

コンピュータの制御の特徴を理解することは,確かで安心・安全・快適な生活の実現につながります。

情報教育とプログラミング教育の目標や内容を比較すると,

・目標や内容の対象は,【情】「情報と情報技術」と【プ】「コンピュータとプログラミング

・育成する思考力等は,共に普遍的な資質・能力の育成を目指しています。

【情】汎用度の高い「情報をとらえる力,効果的に活用する力」と【プ】特殊な「プログラミング的思考

の違いが見られます。

プログラミング教育で,基盤となるコンピュータの適切な活用を図り,情報教育と合わせて,確かな情報活用能力を発揮できるようにすることがねらいと考えられます。