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平成29年告示の学習指導要領における各教科等の目標の実際は,どのようになっているのでしょうか。
教科の役割や性格を明確にし,表現しているのが, 教科の目標です。
目標は,柱書と三つの柱で構成されます。
柱書では,学習指導の基本的な考え方と資質・能力の全体を,三つの柱では,育成を目指す資質・能力の三つの柱に沿った具体的な目標で整理されています。
柱書(冒頭部分)
「…見方・考え方を働かせ」「見方・考え方」
「…活動を通して」「学び方」
「…資質・能力…育成することを目指す。」「資質・能力」
三つの柱(箇条書き部分)
(1)「知識・技能」
(2)「思考力・判断力・表現力等」
(3)「学びに向かう力・人間性等」







1 目標の構造

学習指導要領は,枠組みが大きく見直され目標や内容が整理されました。
学びの地図」として,資質・能力や内容などの全体像を分かりやすく見渡せるようにするためです。
教科の役割や性格を明確にし,表現しているのが, 教科の目標です。
実際に,新しい学習指導要領では,各教科等の目標はどのように整理しされ表記されているでしょうか。

例えば,小学校理科と中学校国語科の目標は,以下のとおりです。

小学校理科
【柱書】
自然に親しみ,理科の見方・考え方を働かせ,見通しをもって観察,実験を行うことなどを通して,自然の事物・現象についての問題を科学的に解決するために必要な資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
(前段)「見方・考え方」,「学び方」,(後段)「資質・能力
【三つの柱】
(1) 自然の事物・現象についての理解を図り,観察,実験などに関する基本的な技能を身に付けるようにする。
(2) 観察,実験などを行い,問題解決の力を養う。
(3) 自然を愛する心情や主体的に問題解決しようとする態度を養う。
(1)「知識及び技能」,(2)「思考力,判断力,表現力等」,(3)「学びに向かう力,人間性等」

中学校国語科
【柱書】
言葉による見方・考え方を働かせ,言語活動を通して,国語で正確に理解し適切に表現する資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
【三つの柱】
(1) 社会生活に必要な国語について,その特質を理解し適切に使うことができるようにする。
(2) 社会生活における人との関わりの中で伝え合う力を高め,思考力や想像力を養う。
(3) 言葉がもつ価値を認識するとともに,言語感覚を豊かにし,我が国の言語文化に関わり,国語を尊重してその能力の向上を図る態度を養う。

このように,目標は,大きく分けて二つの要素で構成されます。
冒頭部分の「柱書」は,どのような学習の過程を通して資質・能力を育成するのかを示しています。
次の箇条書き(1),(2),(3)は,資質・能力の三つの柱です。
(1) 育成を目指す資質・能力のうち「知識及び技能
(2) 育成を目指す資質・能力のうち「思考力,判断力,表現力等
(3) 育成を目指す資質・能力のうち「学びに向かう力,人間性等

2 柱書

(1)「見方・考え方」「学び方」

柱書の前段は,「…見方・考え方を働かせ」,「…活動を通して」という部分で,教科等の特質に応じた学び方を示しています。
学習指導の基本的な考え方です。
音楽科のように「活動を通して」が「見方・考え方」より先行する教科等もあります。

見方・考え方」は,各教科等の特質に応じた物事を捉える視点や考え方であり,各教科等の特質が見られる部分です。資質・能力を育成するためには,「見方・考え方を働かせる」学習活動を設定することが大切です。
各教科等の学びの中核は,
・ 算数科・数学科では「数学的な見方・考え方
・ 図画工作科・美術科では,「造形的な見方・考え方」など
見方・考え方」です。
資質・能力を育むためには,その「見方・考え方」を働かせながら
・ 算数科・数学科では「数学的活動を通して」
・ 図画工作科・美術科では「表現及び鑑賞の(幅広い )活動を通して」など
「主体的・対話的で深い学び」,すなわち「アクティブ・ラーニング」の視点からの学びを実現することが大切です。

(2)「資質・能力」

柱書後段「…資質・能力を育成することを目指す。」の部分は,資質・能力を示します。
育成を目指す資質・能力の全体像です。
・ 国語科では「国語で正確に理解し適切に表現する資質・能力」,
・ 音楽科では「生活や社会の中の音や音楽(,音楽文化 )と豊かに関わる資質・能力」など,
教科等の特質に応じた資質・能力が示されています。
資質・能力の具体は,箇条書き部分に三つの柱として示しています。

3 三つの柱

育成を目指す資質・能力は,三つの柱で整理されています。
目標には,育成を目指す資質・能力の三つの柱に沿った具体的な目標が示されています。

資質・能力の三つの柱
(1) 「何を理解しているか,何ができるか(生きて働く「知識・技能」の習得)」
(2) 「理解していること・できることをどう使うか(未知の状況にも対応できる「思考力・判断力・表現力等」の育成)」
(3) 「どのように社会・世界と関わり,よりよい人生を送るか(学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力・人間性等」の涵養)」

資質・能力は,教科等や諸課題の資質・能力に共通し,それらを高めるために重要な要素となるよう,次の点を踏まえ構成されています。
・ 海外の事例や研究では,知識,スキル,情意(人間性など)の三つに大きく分類される
・ 学校教育法第30条第2項が定める学校教育において重視すべき三要素(「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「主体的に学習に取り組む態度」)と大きく共通する

学校教育法
第4章 小学校 第三〇条2
前項の場合においては,生涯にわたり学習する基盤が培われるよう,基礎的な知識及び技能を習得させるとともに,これらを活用して課題を解決するために必要な思考力,判断力,表現力その他の能力をはぐくみ主体的に学習に取り組む態度を養うことに,特に意を用いなければならない。第5章 中学校 第四九条
第三十条第二項,第三十一条,第三十四条,第三十五条及び第三十七条から第四十四条までの規定は,中学校に準用する。第6章 高等学校
第六二条 第三十条第二項,第三十一条,第三十四条,第三十七条第四項から第十七項まで及び第十九項並びに第四十二条から第四十四条までの規定は高等学校に準用する。

教科等の目標の構造

柱書(冒頭部分)

学習指導の基本的な考え方と育成を目指す資質・能力の全体像
・ 「…見方・考え方を働かせて」:教科等の特質
・ 「…活動を通して」:主体的・対話的で深い学びの学習過程,学習活動
・ 「…資質・能力…育成を目指す」:育成を目指す資質・能力

三つの柱(箇条書き部分)

育成を目指す資質・能力の三つの柱に沿った具体的な目標
(1)「知識・技能」
(2)「思考力・判断力・表現力等」
(3)「学びに向かう力・人間性等」






小学校各教科の目標

国 語
言葉による見方・考え方を働かせ,言語活動を通して,国語で正確に理解し適切に表現する資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
(1) 日常生活に必要な国語について,その特質を理解し適切に使うことができるようにする。
(2) 日常生活における人との関わりの中で伝え合う力を高め,思考力や想像力を養う。
(3) 言葉がもつよさを認識するとともに,言語感覚を養い,国語の大切さを自覚し,国語を尊重してその能力の向上を図る態度を養う。

社 会
社会的な見方・考え方を働かせ,課題を追究したり解決したりする活動を通して,グローバル化する国際社会に主体的に生きる平和で民主的な国家及び社会の形成者に必要な公民としての資質・能力の基礎を次のとおり育成することを目指す。
(1) 地域や我が国の国土の地理的環境,現代社会の仕組みや働き,地域や我が国の歴史や伝統と文化を通して社会生活について理解するとともに,様々な資料や調査活動を通して情報を適切に調べまとめる技能を身に付けるようにする。
(2) 社会的事象の特色や相互の関連,意味を多角的に考えたり,社会に見られる課題を把握して,その解決に向けて社会への関わり方を選択・判断したりする力,考えたことや選択・判断したことを適切に表現する力を養う。
(3) 社会的事象について,よりよい社会を考え主体的に問題解決しようとする態度を養うとともに,多角的な思考や理解を通して,地域社会に対する誇りと愛情,地域社会の一員としての自覚,我が国の国土と歴史に対する愛情,我が国の将来を担う国民としての自覚,世界の国々の人々と共に生きていくことの大切さについての自覚などを養う。

算 数
数学的な見方・考え方を働かせ,数学的活動を通して,数学的に考える資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
(1) 数量や図形などについての基礎的・基本的な概念や性質などを理解するとともに,日常の事象を数理的に処理する技能を身に付けるようにする。
(2) 日常の事象を数理的に捉え見通しをもち筋道を立てて考察する力,基礎的・基本的な数量や図形の性質などを見いだし統合的・発展的に考察する力,数学的な表現を用いて事象を簡潔・明瞭・的確に表したり目的に応じて柔軟に表したりする力を養う。
(3) 数学的活動の楽しさや数学のよさに気付き,学習を振り返ってよりよく問題解決しようとする態度,算数で学んだことを生活や学習に活用しようとする態度を養う。

理 科
自然に親しみ,理科の見方・考え方を働かせ,見通しをもって観察,実験を行うことなどを通して,自然の事物・現象についての問題を科学的に解決するために必要な資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
(1) 自然の事物・現象についての理解を図り,観察,実験などに関する基本的な技能を身に付けるようにする。
(2) 観察,実験などを行い,問題解決の力を養う。
(3) 自然を愛する心情や主体的に問題解決しようとする態度を養う。

生 活
具体的な活動や体験を通して,身近な生活に関わる見方・考え方を生かし,自立し生活を豊かにしていくための資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
(1) 活動や体験の過程において,自分自身,身近な人々,社会及び自然の特徴やよさ,それらの関わり等に気付くとともに,生活上必要な習慣や技能を身に付けるようにする。
(2) 身近な人々,社会及び自然を自分との関わりで捉え,自分自身や自分の生活について考え,表現することができるようにする。
(3) 身近な人々,社会及び自然に自ら働きかけ,意欲や自信をもって学んだり生活を豊かにしたりしようとする態度を養う。

音 楽
表現及び鑑賞の活動を通して,音楽的な見方・考え方を働かせ,生活や社会の中の音や音楽と豊かに関わる資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
(1) 曲想と音楽の構造などとの関わりについて理解するとともに,表したい音楽表現をするために必要な技能を身に付けるようにする。
(2) 音楽表現を工夫することや,音楽を味わって聴くことができるようにする。
(3) 音楽活動の楽しさを体験することを通して,音楽を愛好する心情と音楽に対する感性を育むとともに,音楽に親しむ態度を養い,豊かな情操を培う。

図画工作
表現及び鑑賞の活動を通して,造形的な見方・考え方を働かせ,生活や社会の中の形や色などと豊かに関わる資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
(1) 対象や事象を捉える造形的な視点について自分の感覚や行為を通して理解するとともに,材料や用具を使い,表し方などを工夫して,創造的につくったり表したりすることができるようにする。
(2) 造形的なよさや美しさ,表したいこと,表し方などについて考え,創造的に発想や構想をしたり,作品などに対する自分の見方や感じ方を深めたりすることができるようにする。
(3) つくりだす喜びを味わうとともに,感性を育み,楽しく豊かな生活を創造しようとする態度を養い,豊かな情操を培う。

家 庭
生活の営みに係る見方・考え方を働かせ,衣食住などに関する実践的・体験的な活動を通して,生活をよりよくしようと工夫する資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
(1) 家族や家庭,衣食住,消費や環境などについて,日常生活に必要な基礎的な理解を図るとともに,それらに係る技能を身に付けるようにする。
(2) 日常生活の中から問題を見いだして課題を設定し,様々な解決方法を考え,実践を評価・改善し,考えたことを表現するなど,課題を解決する力を養う。
(3) 家庭生活を大切にする心情を育み,家族や地域の人々との関わりを考え,家族の一員として,生活をよりよくしようと工夫する実践的な態度を養う。

体 育
体育や保健の見方・考え方を働かせ,課題を見付け,その解決に向けた学習過程を通して,心と体を一体として捉え,生涯にわたって心身の健康を保持増進し豊かなスポーツライフを実現するための資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
(1) その特性に応じた各種の運動の行い方及び身近な生活における健康・安全について理解するとともに,基本的な動きや技能を身に付けるようにする。
(2) 運動や健康についての自己の課題を見付け,その解決に向けて思考し判断するとともに,他者に伝える力を養う。
(3) 運動に親しむとともに健康の保持増進と体力の向上を目指し,楽しく明るい生活を営む態度を養う。

外国語
外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方を働かせ,外国語による聞くこと,読むこと,話すこと,書くことの言語活動を通して,コミュニケーションを図る基礎となる資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
(1) 外国語の音声や文字,語彙,表現,文構造,言語の働きなどについて,日本語と外国語との違いに気付き,これらの知識を理解するとともに,読むこと,書くことに慣れ親しみ,聞くこと,読むこと,話すこと,書くことによる実際のコミュニケーションにおいて活用できる基礎的な技能を身に付けるようにする。
(2) コミュニケーションを行う目的や場面,状況などに応じて,身近で簡単な事柄について,聞いたり話したりするとともに,音声で十分に慣れ親しんだ外国語の語彙や基本的な表現を推測しながら読んだり,語順を意識しながら書いたりして,自分の考えや気持ちなどを伝え合うことができる基礎的な力を養う。
(3) 外国語の背景にある文化に対する理解を深め,他者に配慮しながら,主体的に外国語を用いてコミュニケーションを図ろうとする態度を養う。

特別の教科 道徳
第1 目標
第1章総則の第1の2の(2)に示す道徳教育の目標に基づき,よりよく生きるための基盤となる道徳性を養うため,道徳的諸価値についての理解を基に,自己を見つめ,物事を多面的・多角的に考え,自己の生き方についての考えを深める学習を通して,道徳的な判断力,心情,実践意欲と態度を育てる。
第1章総則 第1 小学校教育の基本と教育課程の役割
(2) 道徳教育や体験活動,多様な表現や鑑賞の活動等を通して,豊かな心や創造性の涵養を目指した教育の充実に努めること。
学校における道徳教育は,特別の教科である道徳(以下「道徳科」という。)を要として学校の教育活動全体を通じて行うものであり,道徳科はもとより,各教科,外国語活動,総合的な学習の時間及び特別活動のそれぞれの特質に応じて,児童の発達の段階を考慮して,適切な指導を行うこと。
道徳教育は,教育基本法及び学校教育法に定められた教育の根本精神に基づき,自己の生き方を考え,主体的な判断の下に行動し,自立した人間として他者と共によりよく生きるための基盤となる道徳性を養うことを目標とすること。
道徳教育を進めるに当たっては,人間尊重の精神と生命に対する畏敬の念を家庭,学校,その他社会における具体的な生活の中に生かし,豊かな心をもち,伝統と文化を尊重し,それらを育んできた我が国と郷土を愛し,個性豊かな文化の創造を図るとともに,平和で民主的な国家及び社会の形成者として,公共の精神を尊び,社会及び国家の発展に努め,他国を尊重し,国際社会の平和と発展や環境の保全に貢献し未来を拓く主体性のある日本人の育成に資することとなるよう特に留意すること。

外国語活動
外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方を働かせ,外国語による聞くこと,話すことの言語活動を通して,コミュニケーションを図る素地となる資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
(1) 外国語を通して,言語や文化について体験的に理解を深め,日本語と外国語との音声の違い等に気付くとともに,外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しむようにする。
(2) 身近で簡単な事柄について,外国語で聞いたり話したりして自分の考えや気持ちなどを伝え合う力の素地を養う。
(3) 外国語を通して,言語やその背景にある文化に対する理解を深め,相手に配慮しながら,主体的に外国語を用いてコミュニケーションを図ろうとする態度を養う。

総合的な学習の時間
探究的な見方・考え方を働かせ,横断的・総合的な学習を行うことを通して,よりよく課題を解決し,自己の生き方を考えていくための資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
(1) 探究的な学習の過程において,課題の解決に必要な知識及び技能を身に付け,課題に関わる概念を形成し,探究的な学習のよさを理解するようにする。
(2) 実社会や実生活の中から問いを見いだし,自分で課題を立て,情報を集め,整理・分析して,まとめ・表現することができるようにする。
(3) 探究的な学習に主体的・協働的に取り組むとともに,互いのよさを生かしながら,積極的に社会に参画しようとする態度を養う。

特別活動
集団や社会の形成者としての見方・考え方を働かせ,様々な集団活動に自主的,実践的に取り組み,互いのよさや可能性を発揮しながら集団や自己の生活上の課題を解決することを通して,次のとおり資質・能力を育成することを目指す。
(1) 多様な他者と協働する様々な集団活動の意義や活動を行う上で必要となることについて理解し,行動の仕方を身に付けるようにする。
(2) 集団や自己の生活,人間関係の課題を見いだし,解決するために話し合い,合意形成を図ったり,意思決定したりすることができるようにする。
(3) 自主的,実践的な集団活動を通して身に付けたことを生かして,集団や社会における生活及び人間関係をよりよく形成するとともに,自己の生き方についての考えを深め,自己実現を図ろうとする態度を養う。

文部科学省「小学校学習指導要領」平成29年3月[ONLINE] http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/__icsFiles/afieldfile/2017/04/27/1384661_4_1.pdf(参照2017/05/10)


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・小学校・中学校各教科等の目標の解説
(新学習指導要領(平成29年告示)小学校・中学校学習指導要領の各教科等の目標)小・中学校「教科等の目標解説を読む」シリーズ

小・中学校各教科等の目標の解説