- 3:4:5の三角形で,本当に直角ができるのでしょうか。
三角形の辺の長さの比と角の大きさには,どんな関係があるのでしょうか。 - 3:4:5は,斜辺の対角が直角です。このことは,三平方の定理として知られています。
3:4:5の比は,直角を作るため日常的に使われます。
その他にも,5:12:13,7:24:25,…などの整数比があります。
辺の長さの比が1:1:1の正三角形では60°,角の二等分線で30°,3:4:5の直角三角形では90°,この直角三角形を利用して直角をつくる辺を等しくすると45°が,容易に作れます。
【参考】
1:2:2 の三角形 → 二等辺三角形で,頂角約29°,底角約76°
2:2:3 の三角形 → 二等辺三角形で,頂角約97°,底角約41°
2:3:4 の三角形 → 約104°,約47°,約29°
1 直角三角形の性質の利用
「類推の精度を高める数学的見方」で,次の問題を提示しました。教材となる平行四辺形は,斜辺5cm高さ4cmです。
問題には,斜辺5cm高さ4cmの平行四辺形を提示します。
この問題では,児童の話合いを深めるきっかけをつくるため,斜辺を整数値になるように決めています。
この決め方は,もう一辺の長さが3cmの直角三角形の性質を利用しています。
3cm,4cm,5cmという組み合わせの直角三角形は,児童が,算数のノートに長さを測り取って作図するのに,ちょうどよい大きさです。
考えを書き込むスペースが必要なノートに,図形が収まりやすく,児童が作図しやすいサイズで,3辺が整数値になる直角三角形はこれ一つです。
2 三平方の定理(ピタゴラスの定理)
(1)三平方の定理
この直角三角形の3辺の関係の性質は「三平方の定理」として中学校第3学年で指導します。
直角三角形の直角をはさむ2辺の長さをa,b,斜辺の長さをcとすると,次の関係が成り立つ。
a2+b2=c2
① 底辺と平行な直線上を頂点が移動し高さが等しいため,三角形の面積は変わらない。
② 合同な三角形は面積が等しい。
③ ①と同様
ピタゴラスの定理の証明方法は数百通りあることが知られています。
中学校の教科書では,図形の性質を使った証明は発展的な学習で取り扱われ,数式を中心とした証明を取り扱っています。
R=(a+b)2-(1/2)ab×4
=a2+2ab+b2-2ab
=a2+b2
P=a2,Q=b2
∴P+Q=R
したがって,
3:4:5の比の場合
32+42=9+16=25=(√25)2=52
5:12:13の比の場合
52+122=25+144=169=(√169)2=132
他にも,7:24:25,…などの整数比があり無数に存在します。
(2)ピタゴラス数
(3,4,5)(5,12,13)(7,24,25)のような直角三角形の3辺の長さとなる自然数の組を,「ピタゴラス数」といいます。
最大公約数が1のピタゴラス数は,異なる自然数m,nを用いて次のように表されることが知られています。
x=m2-n2,y=2mn,z=m2+n2
m=2,n=1のとき,ピタゴラス数(3,4,5) このとき,なんと面積は「6」
m=3,n=2のとき,ピタゴラス数(5,12,13)
m=4,n=3のとき,ピタゴラス数(7,24,25)
ピタゴラス数に関わって,フェルマーの最終定理というものがあります。
3以上の自然数nについて,xn+yn=znとなる自然数の組(x,y,z)は存在しない
「フェルマーが驚くべき証明を得たと書き残したと伝えられ,長らく証明も反証もなされなかったことからフェルマー予想とも称されたが,360年後にアンドリュー・ワイルズによって完全に証明され,ワイルズの定理あるいはフェルマー・ワイルズの定理とも呼ばれるようになった。」
ウィキペディア「フェルマーの最終定理」[online]https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%AB%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%81%AE%E6%9C%80%E7%B5%82%E5%AE%9A%E7%90%86(2017/5/31)
フェルマー・ワイルズの定理によれば,(n=3):x3+y3=z3となる自然数の組(x,y,z)は存在しません。
x=m2-n2,y=2mn,z=m2+n2で求められる(n=2):x2+y2=z2は,三平方の定理です。
(n=1):x+y=zは(2,1,3)など無限に存在します。
このように考えてくると,(n=1)は特段の意味をもたず,(n>=3)は存在しないので,(n=2):x2+y2=z2が重要です。
その中でも,ピタゴラス数(3,4,5)は,特異な自然数の組と考えられます。
ピタゴラスの定理が有用なのは,定理の逆も成り立つからです。
三角形の三つの辺の長さをa,b,cとするとき,もしその間に,a2+b2=c2という関係が成り立つならば,この三角形は,cという長さの辺に対する角が直角である直角三角形である。
ピタゴラス数(3,4,5)を使って直角をつくる場面は,生活の中で見ることができます。
3 三角形の辺の比の利用
(1)3:4:5の利用
① 運動場に直角をつくる
学校では,運動場に直角を作る必要のあるとき,巻き尺を3:4:5の比にして直角を作ることがあります。
ピタゴラスの定理の逆を利用しています。
- まず,直角をなす一辺となる直線Lを決めます。
- 直線L上に基準点Aを取り,釘Aを打ちます。点Aを頂点として直角を作ります。
- 直線L上に基準点Aから4mのところを点Bとし2本目の釘Bを打ちます。
- 2つの釘ABにロープ(巻尺)をひっかけながら, 0mと12mの目盛りを重ねて保持し,ロープをぴんと張ります。そのとき,辺ACは3m,辺ABは4mとなるよう点Aと点Bの目盛りがずれないようにします。重ねて保持した点を点Cとし釘Cを打ちます。
- このとき,三角形ABCは直角三角形です。はじめに打った釘Aを頂点とする角BACが直角になります。
直角作りとを通して,3辺の長さが決まれば三角形が一意に決まることを実感できます。
続いて,45°を作ります。
- 辺AB上で,点Aから点Bに向かって3mの点を点Dとします。
- 3本の釘を利用して,ギリシャ文字φの小文字の筆記体を書くように,点C→点B→点A→点C→点Dとロープを釘にかけながら伸ばします。
- 点Cから点Dを通る直線を作ります。
- このとき,角ACDの大きさは45°です。
- 辺AC=辺ADなので,三角形ACDは直角二等辺三角形です。したがって,角CDAの大きさも45°です。
② 建設現場で直角を確かめる
建設現場でも,直角を確かめるときに使われるときがあります。
- 直角と思われる二本の交わった線の一辺に鉛筆等で3mの印を付けます。
- もう一辺を4mの印を付けます。
- 印と印の長さを測って5mなら,
- この二本の交わった線は直角と判断します。
③ 日常で3:4:5を作る方法
日常では,直角は容易に作れます。巻き尺などの普遍単位のメジャーは必要ありません。
- 長めのひもやロープを用意します。
- 任意に1の単位の長さを決めます。直角を利用する図形が大きいときは,単位を長めに取ります。長めの時は一ひろ分(自分の体で,両手を広げた長さ)が容易に作れます。ただし,一ひろで単位の長さをとると,20mほどのひもが必要になります。
- 3ひろ,4ひろ,5ひろの長さのところに印を入れます。印が入れられないときは,結び目(バタフライノットなど)を作ります。
- 印を入れたところに3点を固定すれば,斜辺5に対応する角の大きさが直角になります。
(2)その他の辺の長さの比と角大きさの関係
① 1:1:1,2:2:(1+1)の利用
辺の長さの比が1:1:1の三角形,すなわち正三角形では,一つの角の大きさが60°です。これは最も容易に作図できます。
この応用として,2:2:(1+1)の利用ができます。正三角形の一つの角の二等分線を作図すると,その角の大きさは30°です。
文部科学省「新体力テスト」ソフトボール投げの会場は,平坦な地面上に直径2mの円を描き,円の中心から投球方向に向かって,中心 角30°になるように直線を2本引き,その間に同心円弧を1m間隔に 描くようになっています。
中心角30°は,正三角形の角の二等分線が30°となることから,巻尺で正三角形とその二等分線を一筆がきして,作成することがあります。このときできる直角三角形の辺の比は,1:2:√3です。
日常生活では,30°,60°の角の大きさはあまり見かけませんが,90°は,生活の中のあらゆるところで使われています。
角の大きさが90°のところや,2つの直線が垂直に交わるところなどで,3:4:5の辺の比が使えるかもしれません。
② 簡単な整数比でできる角の大きさ
辺の長さの比が,1:1:1の正三角形や3:4:5の直角三角形は,日常で容易に作れます。
その他の簡単な整数比では,どんな大きさの角ができるのでしょうか。参考に調べてみました。
・ 1:2:2 二等辺三角形で,頂角が約29° 精度を求めなければ,日常的には,正三角形の二等分線を作るより楽です。
・ 2:2:3 二等辺三角形で,頂角約97°,底角約41°
・ 2:3:4 約104°,約47°,約29°
・ 4:4:1 二等辺三角形で,頂角約14°,底角約83°
日常的に使えそうな数の比はこの程度でしょうか。
4 まとめ
3:4:5の比など,三角形の辺の長さの比が,整数比でつくれる角の数が多いと,生活に役立つ場面が増えます。
しかしながら,簡単な辺の長さの比で使えそうな角の大きさをもつ三角形はなかなか無いものです。
三平方の定理については,直角三角形の各辺を一辺とする正三角形や,一辺を直径とする半円でも,同様の関係が成り立つことが分かっています。
このことは演繹的に証明できます。
三角形の辺の長さの比が,3:4:5のときは,斜辺の対角が直角になります。
これは,三平方の定理です。
その他にも,5:12:13,7:24:25,…などの整数比があります。
辺の長さの比が,1:1:1の正三角形や3:4:5の直角三角形は,日常で容易に作れます。
以上,辺の長さの比に着目して,三角形の辺の長さの比と角の大きさの関係を調べてきました。
これは図形の構成要素に着目した数学的な見方の一つであり,新学習指導要領で示される数学的な見方・考え方です。
【参考】
1:2:2 は,二等辺三角形で,頂角約29°,底角約76°
2:2:3 は,二等辺三角形で,頂角約97°,底角約41°
2:3:4 は,約104°,約47°,約29°です。
日常的に使えそうな数の比はこの程度でしょうか。
三角形の辺の長さの比が整数比でつくれる角の数が多いと,生活に役立つ場面が増えます。