- 平成29年告示の中学校学習指導要領「特別の教科 道徳」の目標は,どのようなものでしょうか。
- 学校における道徳教育は,
教育基本法及び学校教育法に定められた教育の根本精神に基づき,自己の生き方を考え,主体的な判断の下に行動し,自立した人間として他者と共によりよく生きるための基盤となる道徳性を養うことを目標とする教育活動です。
中学校道徳科の目標は,
よりよく生きるための基盤となる道徳性を養うため,
道徳的諸価値についての理解を基に,自己を見つめ,物事を広い視野から多面的・多角的に考え,人間としての生き方についての考えを深める学習を通して,
道徳的な判断力,心情,実践意欲と態度を育てることです。
学校の教育活動全体を通じて行う道徳教育の中で,道徳科は,
各活動における道徳教育の要として,それらを補ったり,深めたり,相互の関連を考えて発展させたり統合させたりする役割を果たします。
道徳科の授業では,多様な価値観の,時に対立がある場合を含めて,自立した個人として,また,国家・社会の形成者としてよりよく生きるために道徳的価値に向き合い,いかに生きるべきかを自ら考え続ける姿勢こそが求めるものです。
道徳性とは,人間としてよりよく生きようとする人格的特性です。道徳教育は道徳性を構成する諸様相である道徳的判断力,道徳的心情,道徳的実践意欲と態度を養うことを求めています。
掲載の趣旨
平成29年告示の学習指導要領では,資質・能力や内容などの全体像を分かりやすく見渡せるよう,枠組みが大きく見直され「学びの地図」として整理されました。
その趣旨に添い,本稿では,解説本文を次のように編集しています。
・ 目標解説の内容が捉えやすいように原文を装飾
・ 他教科等・他学校種の目標や解説が比較しやすように編集
具体的には,本文は原文通りで,次のように編集しています。
・ 各教科等の目標の解説を共通した章立てで構成
・ 学校種間の対応する内容についてリンクで移動 など
掲載の趣旨の詳細は,下のボタンより参照できます。
なお,本稿は,「文部科学省ウェブサイト利用規約」(2018年3月1日に利用)に基づいて,原本を加工し作成しています。
小学校・中学校各教科等の目標の解説 「小・中学校「教科等の目標解説を縦横に読む」シリーズ」は,下のボタンより閲覧できます。
中学校 道徳教育の目標
1 道徳教育と道徳科
(「第1章 総則」の「第1 中学校教育の基本と教育課程の役割」の2の(2) 2段目))
学校における道徳教育は,特別の教科である道徳(以下「道徳科」という。)を要として学校の教育活動全体を通じて行うものであり,道徳科はもとより,各教科,総合的な学習の時間及び特別活動のそれぞれの特質に応じて,生徒の発達の段階を考慮して,適切な指導を行うこと。
(1)道徳教育の目標
学校における道徳教育は,
自己の生き方を考え,主体的な判断の下に行動し,自立した一人の人間として他者と共によりよく生きるための基盤となる道徳性を養うこと
を目標とする教育活動であり,社会の変化に対応しその形成者として生きていくことができる人間を育成する上で重要な役割をもっている。
※ 小学校で各教科等に「外国語活動」が追加併記される以外は,小学校と中学校で共通。
(2)道徳科の役割
道徳教育は,学校や生徒の実態などを踏まえ設定した目標を達成するために,
道徳科はもとより,各教科,総合的な学習の時間及び特別活動のそれぞれの特質に応じて行うことを基本として,あらゆる教育活動を通じて,適切に行われなくてはならない。
その中で,道徳科は,
各活動における道徳教育の要として,それらを補ったり,深めたり,相互の関連を考えて発展させたり統合させたりする役割を果たす。
したがって,
・各教育活動での道徳教育がその特質に応じて意図的,計画的に推進され,相互に関連が図られるとともに,
・道徳科において,各教育活動における道徳教育で養われた道徳性が調和的に生かされ,道徳科としての特質が押さえられた学習が計画的,発展的に行われること
によって,生徒の道徳性は一層豊かに養われていく。
※ 小学校で要の比喩有り。他は小学校と中学校で共通。
(3)発達段階を踏まえた指導
また,学校における道徳教育は,生徒の発達の段階を踏まえて行われなければならない。
その際,多くの生徒がその発達の段階に達するとされる年齢は目安として考えられるものであるが,生徒一人一人は違う個性をもった個人であるため,それぞれ能力・適性,興味・関心,性格等の特性等は異なっていることにも意を用いる必要がある。
発達の段階を踏まえると,幼児期の指導から小学校,中学校へと,各学校段階における幼児,児童,生徒が見せる成長発達の様子やそれぞれの段階の実態等を考慮して指導を進めることとなる。
その際,例えば,中学校の時期においては,3年間の発達の段階を考慮するとともに,特に中学校に入学して間もない時期には小学校高学年段階における指導との接続を意識しつつ,また学年が上がるにつれて高等学校等における人間としての在り方生き方に関する教育への見通しをもって,それぞれの段階にふさわしい指導の目標を明確にし,指導内容や指導方法を生かして,計画的に進めることになる。しかし,この捉え方だけでは十分とは言えない。
道徳科においては,発達の段階を前提としつつも,指導内容や指導方法を考える上では,個々人としての特性等から捉えられる個人差に配慮することも重要となる。
生徒の実態を把握し,指導内容,指導方法を決定してこそ,適切に指導を行うことが可能となる。
※ 小学校で幼・小・中,中学校で小・中・高の発達段階を踏まえる
2 道徳科の目標
(1)目標
第1章総則の第1の2の(2) に示す道徳教育の目標に基づき,よりよく生きるための基盤となる道徳性を養うため,道徳的諸価値についての理解を基に,自己を見つめ,物事を広い視野から多面的・多角的に考え,人間としての生き方についての考えを深める学習を通して,道徳的な判断力,心情,実践意欲と態度を育てる。
※ 小学校では「物事を多面的・多角的に考え,自己の生き方についての考え」,中学校では「物事を広い視野から多面的・多角的に考え,人間としての生き方についての考え」となる
※ 平成20年小学校学習指導要領「道徳」目標
「道徳教育の目標は,第1章総則の第1の2に示すところにより,学校の教育活動全体を通じて,道徳的な心情,判断力,実践意欲と態度などの道徳性を養うこととする。
道徳の時間においては,以上の道徳教育の目標に基づき,各教科,総合的な学習の時間及び特別活動における道徳教育と密接な関連を図りながら,計画的,発展的な指導によってこれを補充,深化,統合し,道徳的価値及びそれに基づいた人間としての生き方についての自覚を深め,道徳的実践力を育成するものとする。」
※ 平成10年小学校学習指導要領「道徳」目標
「道徳教育の目標は,第1章総則の第1の2に示すところにより,学校の教育活動全体を通じて,道徳的な心情,判断力,実践意欲と態度などの道徳性を養うこととする。
道徳の時間においては,以上の道徳教育の目標に基づき,各教科,特別活動及び総合的な学習の時間における道徳教育と密接な関連を図りながら,計画的,発展的な指導によってこれを補充,深化,統合し,道徳的価値及び人間としての生き方についての自覚を深め,道徳的実践力を育成するものとする。」
※ 平成元年小学校学習指導要領「道徳」目標
「道徳教育の目標は,教育基本法及び学校教育法に定められた教育の根本精神に基づき,人間尊重の精神と生命に対する畏〔い〕敬の念を家庭,学校,その他社会における具体的な生活の中に生かし,個性豊かな文化の創造と民主的な社会及び国家の発展に努め,進んで平和的な国際社会に貢献できる主体性のある日本人を育成するため,その基盤としての道徳性を養うこととする。
道徳の時間においては,以上の目標に基づき,各教科及び特別活動における道徳教育と密接な関連を図りながら,計画的,発展的な指導によってこれを補充,深化,統合し,生徒の道徳的心情を豊かにし,道徳的判断力を高め,道徳的実践意欲と態度の向上を図ることを通して,人間としての生き方についての自覚を深め,道徳的実践力を育成するものとする。」
道徳科が目指すものは,学校の教育活動全体を通じて行う道徳教育の目標と同様によりよく生きるための基盤となる道徳性を養うことである。
その中で,道徳科が学校の教育活動全体を通じて行う道徳教育の要としての役割を果たすことができるよう,計画的,発展的な指導を行うことが重要である。
特に,各教科,総合的な学習の時間及び特別活動における道徳教育としては取り扱う機会が十分でない道徳的価値に関わる指導を補うことや,生徒や学校の実態等を踏まえて指導をより一層深めること,相互の関連を捉え直したり発展させたりすることに留意して指導することが求められる。
道徳教育の要となる道徳科の目標は,道徳性を養うために重視すべきより具体的な資質・能力とは何かを明確にし,生徒の発達の段階を踏まえて計画的な指導を充実する観点から規定されたものである。
その際,道徳的価値や人間としての生き方についての自覚を深め,道徳的実践につなげていくことができるようにすることが求められる。
また,各教科,総合的な学習の時間及び特別活動では,それぞれの目標に基づいて教育活動が行われる。
これら各教科等で行われる道徳教育は,それぞれの特質に応じた計画によってなされるものであり,道徳的諸価値の全体にわたって行われるものではない。
このことに留意し,道徳教育の要である道徳科の目標と特質を捉えることが大切である。
なお,道徳科の授業では,特定の価値観を生徒に押し付けたり,主体性をもたずに言われるままに行動するよう指導したりすることは,道徳教育の目指す方向の対極にあるものと言わなければならない。
多様な価値観の,時に対立がある場合を含めて,自立した個人として,また,国家・社会の形成者としてよりよく生きるために道徳的価値に向き合い,いかに生きるべきかを自ら考え続ける姿勢こそ道徳教育が求めるものである。
(2)道徳教育の目標に基づいて行う
道徳教育は学校の教育活動全体を通じて行う教育活動であり,その目標は,学習指導要領第1章総則の第1の2の (2) に以下のように示している。
「道徳教育は,教育基本法及び学校教育法に定められた教育の根本精神に基づき,人間としての生き方を考え,主体的な判断の下に行動し,自立した人間として他者と共によりよく生きるための基盤となる道徳性を養うことを目標とする」
※ 小学校では「自己の生き方を考え」,中学校では「人間としての生き方を考え」となる。
道徳科も学校の教育活動であり,道徳科を要とした道徳教育が目指すものは,特に教育基本法に示された
「人格の完成を目指し,平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成」(第1条)
であり,
1. 「幅広い知識と教養を身に付け,真理を求める態度を養い,豊かな情操と道徳心を培うとともに,健やかな身体を養う」(第2条第1号)こと,
2. 「個人の価値を尊重して,その能力を伸ばし,創造性を培い,自主及び自律の精神を養うとともに,職業及び生活との関連を重視し,勤労を重んずる態度を養う」(同条第2号)こと,
3. 「正義と責任,男女の平等,自他の敬愛と協力を重んずるとともに,公共の精神に基づき,主体的に社会の形成に参画し,その発展に寄与する態度を養う」(同条第3号)こと,
4. 「生命を尊び,自然を大切にし,環境の保全に寄与する態度を養う」(同条第4号)こと,
5. 「伝統と文化を尊重し,それらをはぐくんで きた我が国と郷土を愛するとともに,他国を尊重し,国際社会の平和と発展に寄与する態度を養う」(同条第5号)こと
につながるものでなければならない。
そして,主体的な判断に基づいて道徳的実践を行い,自立した人間として他者と共によりよく生きるための基盤となる道徳性を養うことが道徳科の目標である。
このことは各教科等における道徳教育でも同様であり,道徳科がどのように 道徳性を養うのかは,以下の具体的な目標によるところである。
※ 「(2)道徳教育の目標に基づいて行う」は,小学校と中学校で共通
(3)道徳的諸価値についての理解を基にする
道徳的価値とは,
よりよく生きるために必要とされるものであり,人間としての在り方や生き方の礎となるものである。
学校教育においては,これらのうち発達の段階を考慮して,生徒一人一人が道徳的価値観を形成する上で必要なものを内容項目として取り上げている。
生徒が今後,様々な問題場面に出会った際に,その状況に応じて自己の生き方を考え,主体的な判断に基づいて道徳的実践を行うためには,道徳的価値の意義及びその大切さの理解が必要になる。
道徳的価値について理解するとは,
発達の段階に応じて多様に考えられるが,一般的には,
・ 道徳的価値の意味を捉えること,
・ またその意味を明確にしていくこと
である。
思春期にかかる中学生の発達の段階においては,ふだんの生活においては分かっていると信じて疑わない様々な道徳的価値について,学校や家庭,地域社会における様々な体験,道徳科における教材との出会いやそれに基づく他者との対話などを手掛かりとして自己との関わりを問い直すことによって,そこから本当の理解が始まるのである。
また,時には複数の道徳的価値が対立する場面にも直面する。
その際,生徒は,時と場合,場所などに応じて,複数の道徳的価値の中から,どの価値を優先するのかの判断を迫られることになる。その際の心の葛藤や揺れ,また選択した結果などから,道徳的諸価値への理解が始まることもある。
このようなことを通して,道徳的諸価値が人間としてのよさを表すものであることに気付き,人間尊重の精神と生命に対する畏敬の念に根ざした自己理解や他者理解,人間理解,自然理解へとつながっていくようにすることが求められる。
道徳科の中で道徳的価値の理解のための指導をどのように行うのかは,授業者の意図や工夫によるが,自立した人間として他者と共によりよく生きるための基盤となる道徳性を養うには,道徳的価値について理解する学習を欠くことはできない。
また,指導の際には,特定の道徳的価値を絶対的なものとして指導したり,本来実感を伴って理解すべき道徳的価値のよさや大切さを観念的に理解させたりする学習に終始することのないように配慮することが大切である。
(4)自己を見つめ,物事を広い視野から多面的・多角的に考え,人間としての生き方についての考えを深める
道徳科において,後に示されている道徳的な判断力,心情,実践意欲と態度を育てるため,ここでは,学習を進めていく上で留意すべき諸側面を明示している。
すなわち,道徳科の学習を進めるに当たっては,その特質を踏まえて,自己を見つめ,物事を広い視野から多面的・多角的に考え,人間としての生き方について考えを深める学習に意を用いる必要がある。
ただし,こうした諸側面は,道徳科における一連の学習過程として形式的・固定的に捉えられるべきものではない。
要は,道徳的価値や人間としての生き方についての自覚を深め,道徳的実践につなげていくことができるようにその学習内容や方法を構想していくことが求められる。
① 自己を見つめる
道徳性の発達の出発点は,自分自身である。
中学生の頃から,様々な葛藤や経験の中で,自分を見つめ,自分の生き方を模索するようになる。感情や衝動の赴くままに行動し,自分の弱さに自己嫌悪を感じることもあるであろうし,逆に,理想や本来の自分の姿を追い求め,大きく前進しようとすることもある。
中学生は,そのような大きく,激しい心の揺れを経験しながら,自己を確立していく大切な時期にある。
中学校段階では,小学校において育成される道徳性の基礎を踏まえ,よりよく生きる上で大切なものは何か,自分はどのように生きるべきかなどについて,時には悩み,葛藤しつつ,生徒自身が,自己を見つめることによって,徐々に自ら人間としての生き方を育んでいくことが可能となる。
したがって,様々な道徳的価値について,自分との関わりも含めて理解し,それに基づいて内省することが求められる。
その際には,
・ 真摯に自己と向き合い,自分との関わりで改めて道徳的価値を捉え,一個のかけがえのない人格としてその在り方や生き方など自己理解を深めていく必要がある。
・ また,自分自身が人間としてよりよく生きていく上で道徳的価値を自分なりに発展させていくことへの思いや課題に気付き,
・ 自己や社会の未来に夢や希望がもてるようにすることも大切である。
② 物事を広い視野から多面的・多角的に考える
グローバル化が進展する中で,様々な文化や価値観を背景とする人々と相互に尊重し合いながら生きることや,科学技術の発達や社会・経済の変化の中で,人間の幸福と社会の発展の調和的な実現を図ることが一層重要な課題となる。
こうした課題に対応していくためには,人としての生き方や社会の在り方について,多様な価値観の存在を前提にして,他者と対話し協働しながら,物事を広い視野から多面的・多角的に考察することが求められる。
この部分は,生徒一人一人の道徳的価値に係る諸事象を,小・中学校の段階を含めたこれまでの道徳科を要とする各教科等における学習の成果や,
1.「主として自分自身に関すること」,
2.「主として人との関わりに関すること」,
3.「主として集団や社会との関わりに関すること」,
4.「主として生命や自然,崇高なものとの関わりに関すること」
の四つの視点を踏まえ,多面的・多角的に考察する学習を意味している。
とりわけ,諸事象の背景にある道徳的諸価値の多面性に着目させ,それを手掛かりにして考察させて,
・ 様々な角度から総合的に考察することの大切さや,
・ いかに生きるかについて主体的に考えることの大切さ
に気付かせることが肝要である。それは,物事の本質を考え,そこに内在する道徳的諸価値を見極めようとする力にも通じるものである。
③ 人間としての生き方についての考えを深める
中学生の時期は,人生に関わるいろいろな問題についての関心が高くなり,人生の意味をどこに求め,いかによりよく生きるかという人間としての生き方を主体的に模索し始める時期である。人間にとって最大の関心は,人生の意味をどこに求め,いかによりよく生きるかということにあり,道徳はこのことに直接関わるものである。
そもそも人生は,誰かに任せることができるものではない。誰かの人生ではなく一人一人が自分自身の人生として引き受けなければならない。他者や社会,周囲の世界の中でその影響を受けつつ,自分を深く見つめ,在るべき自分の姿を描きながら生きていかなければならない。
その意味で,人間は,自らの生きる意味や自己の存在価値に関わることについては,全人格をかけて取り組むのである。
また,人間としての生き方についての自覚は,人間とは何かということについての探求とともに深められるものである。生き方についての探求は,人間とは何かという問いから始まると言ってもよい。人間についての深い理解なしに,生き方についての深い自覚が生まれるはずはないのである。
言い換えれば,人間についての深い理解と,これを鏡として行為の主体としての自己を深く見つめることとの接点に,生き方についての深い自覚が生まれていく。
そのことが,主体的な判断に基づく適切な行為の選択や,よりよく生きていこうとする道徳的実践へつながっていくこととなる。
このような視点に立って,生徒が人間としての生き方について考えを深められるように様々な指導方法の工夫をしていく必要がある。
※ 小学校では「(3)道徳性を養うために行う道徳科における学習 ①道徳的諸価値について理解する ②自己を見つめる ③物事を多面的・多角的に考える ④自己の生き方についての考えを深める」で構成する内容は,中学校では「(3)道徳的諸価値についての理解を基にする (4)自己を見つめ,物事を広い視野から多面的・多角的に考え,人間としての生き方についての考えを深める ①自己を見つめる ②物事を広い視野から多面的・多角的に考える ③人間としての生き方についての考えを深める」で構成する。
小学校では「学習過程の4つの鍵となる活動」の列挙により確かな学習を重視し,中学校では「道徳的価値の自覚」と「人間としての生き方についての自覚」の並列により個の学びの深化を重視した構成と考えられる。
(5)道徳的な判断力,心情,実践意欲と態度を育てる
道徳性とは,人間としてよりよく生きようとする人格的特性
であり,道徳性を構成する諸様相である道徳的判断力,道徳的心情,道徳的実践意欲と態度を養うことを求めている。
これらの道徳性の諸様相は,それぞれが独立した特性ではなく,相互に深く関連しながら全体を構成しているものである。したがって,これらの諸様相が全体として密接な関連をもつように指導することが大切である。
道徳科においては,これらの諸様相について調和を保ちながら,計画的,発展的に指導することが重要である。
道徳的判断力は,それぞれの場面において善悪を判断する能力である。
つまり,人間として生きるために道徳的価値が大切なことを理解し,様々な状況下において人間としてどのように対処することが望まれるかを判断する力である。
的確な道徳的判断力をもつことによって,それぞれの場面において機に応じた道徳的行為が可能になる。
道徳的心情は,道徳的価値の大切さを感じ取り,善を行うことを喜び,悪を憎む感情のことである。
人間としてのよりよい生き方や善を志向する感情であるともいえる。それは,道徳的行為への動機として強く作用するものである。
道徳的実践意欲と態度は,道徳的判断力や道徳的心情によって価値があるとされた行動をとろうとする傾向性を意味する。
・道徳的実践意欲は,道徳的判断力や道徳的心情を基盤とし道徳的価値を実現しようとする意志の働きであり,
・道徳的態度は,それらに裏付けられた具体的な道徳的行為への身構えと言うことができる。
これらの道徳性の諸様相には,特に序列や段階があるということではない。
一人一人の生徒が道徳的価値を自覚し,人間としての生き方について深く考え,日常生活や今後出会うであろう様々な場面及び状況において,道徳的価値を実現するための適切な行為を主体的に選択し,実践することができるような内面的資質を意味している。
道徳性を養うことを目的とする道徳科においては,その目標を十分に理解して,教師の一方的な押し付けや単なる生活経験の話合いなどに終始することのないように特に留意し,それにふさわしい指導の計画や方法を講じ,指導の効果を高める工夫をすることが大切である。
道徳性は,徐々に,しかも着実に養われることによって,潜在的,持続的な作用を行為や人格に及ぼすものであるだけに,長期的展望と綿密な計画に基づいた丹念な指導がなされ,道徳的実践につなげていくことができるようにすることが求められる。
出典:文部科学省「中学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編 第2章 道徳教育の目標 第1節 道徳教育と道徳科,第2節 道徳科の目標 」平成29年7月 [ONLINE]http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2017/11/29/1387017_12_3.pdf(参照2018/04/07)を加工して作成
平成29年7月版[ONLINE]http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/05/07/1387018_11_4.pdf(cf:2018-12-08) 確認
資 料
「第1章 総則」の「第1 中学校教育の基本と教育課程の役割」の2の(2)の2段目
第1章 総則 第1 中学校教育の基本と教育課程の役割
2 学校の教育活動を進めるに当たっては,各学校において,第3の1に示す 主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善を通して,創意工夫を生 かした特色ある教育活動を展開する中で,次の(1)から(3)までに掲げる事項 の実現を図り,生徒に生きる力を育むことを目指すものとする。
(1) 基礎的・基本的な知識及び技能を確実に習得させ, …後略…
(2) 道徳教育や体験活動,多様な表現や鑑賞の活動等を通して,豊かな心や創造性の涵養を目指した教育の充実に努めること。
学校における道徳教育は,特別の教科である道徳(以下「道徳科」という。)を要として学校の教育活動全体を通じて行うものであり,道徳科はもとより,各教科,総合的な学習の時間及び特別活動のそれぞれの特質に応じて,生徒の発達の段階を考慮して,適切な指導を行うこと。
道徳教育は,教育基本法及び学校教育法に定められた教育の根本精神に基づき,自己の生き方を考え,主体的な判断の下に行動し,自立した人間として他者と共によりよく生きるための基盤となる道徳性を養うことを目標とすること。
道徳教育を進めるに当たっては,人間尊重の精神と生命に対する畏敬の念を家庭,学校,その他社会における具体的な生活の中に生かし,豊かな心をもち,伝統と文化を尊重し,それらを育んできた我が国と郷土を愛し, 個性豊かな文化の創造を図るとともに,平和で民主的な国家及び社会の形成者として,公共の精神を尊び,社会及び国家の発展に努め,他国を尊重し,国際社会の平和と発展や環境の保全に貢献し未来を拓く主体性のある日本人の育成に資することとなるよう特に留意すること。
(3) 学校における体育・健康に関する指導を,…後略…
※出典:「中学校学習指導要領 」平成29年3月 文部科学省http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/03/29/1384661_5_2.pdf(参照 2018.4.08)
教育基本法
教育基本法(昭和二十二年法律第二十五号)の全部を改正する。
目次
前文
第一章 教育の目的及び理念(第一条―第四条)
第二章 教育の実施に関する基本(第五条―第十五条)
第三章 教育行政(第十六条・第十七条)
第四章 法令の制定(第十八条)
附則
我々日本国民は,たゆまぬ努力によって築いてきた民主的で文化的な国家を更に発展させるとともに,世界の平和と人類の福祉の向上に貢献することを願うものである。
我々は,この理想を実現するため,個人の尊厳を重んじ,真理と正義を希求し,公共の精神を尊び,豊かな人間性と創造性を備えた人間の育成を期するとともに,伝統を継承し,新しい文化の創造を目指す教育を推進する。
ここに,我々は,日本国憲法の精神にのっとり,我が国の未来を切り拓く教育の基本を確立し,その振興を図るため,この法律を制定する。
第一章 教育の目的及び理念
(教育の目的)
第一条 教育は,人格の完成を目指し,平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。
(教育の目標)
第二条 教育は,その目的を実現するため,学問の自由を尊重しつつ,次に掲げる目標を達成するよう行われるものとする。
一 幅広い知識と教養を身に付け,真理を求める態度を養い,豊かな情操と道徳心を培うとともに,健やかな身体を養うこと。
二 個人の価値を尊重して,その能力を伸ばし,創造性を培い,自主及び自律の精神を養うとともに,職業及び生活との関連を重視し,勤労を重んずる態度を養うこと。
三 正義と責任,男女の平等,自他の敬愛と協力を重んずるとともに,公共の精神に基づき,主体的に社会の形成に参画し,その発展に寄与する態度を養うこと。
四 生命を尊び,自然を大切にし,環境の保全に寄与する態度を養うこと。
五 伝統と文化を尊重し,それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに,他国を尊重し,国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと。
(生涯学習の理念)
第三条 国民一人一人が,自己の人格を磨き,豊かな人生を送ることができるよう,その生涯にわたって,あらゆる機会に,あらゆる場所において学習することができ,その成果を適切に生かすことのできる社会の実現が図られなければならない。
(教育の機会均等)
第四条 すべて国民は,ひとしく,その能力に応じた教育を受ける機会を与えられなければならず,人種,信条,性別,社会的身分,経済的地位又は門地によって,教育上差別されない。
2 国及び地方公共団体は,障害のある者が,その障害の状態に応じ,十分な教育を受けられるよう,教育上必要な支援を講じなければならない。
3 国及び地方公共団体は,能力があるにもかかわらず,経済的理由によって修学が困難な者に対して,奨学の措置を講じなければならない。
※出典:教育基本法(前文,第一条―第四条) http://www.mext.go.jp/b_menu/houan/an/06042712/003.htm(参照 2018.3.18)
道徳性を養う学習と,道徳教育で育成を目指す資質・能力の整理
※出典:中央教育審議会「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)別添資料(3/3)別添16-3道徳性を養う学習と,道徳教育で育成を目指す資質・能力の整理 」平成28年12月21日[ONLINE]http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2017/01/20/1380902_3_3_1.pdf(参照2018/04/07)
参考「人間としての在り方生き方」について
※出典:中央教育審議会「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)別添資料(3/3)別添16-3参考「人間としての在り方生き方」について」平成28年12月21日[ONLINE]http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2017/01/20/1380902_3_3_1.pdf(参照2018/04/07)
道徳教育の充実
※出典:文部科学省「学校教育法施行規則の一部を改正する省令の制定並びに幼稚園教育要領の全部を改正する告示,小学校学習指導要領の全部を改正する告示及び中学校学習指導要領の全部を改正する告示等の公示について(通知)」平成29年3月31日[ONLINE]http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2017/05/12/1384661_1_1.pdf(参照2018/04/09)
道徳科の学習評価に関する考え方
※出典:文部科学省「学習指導要領の一部改正に伴う小学校,中学校及び特別支援学校小学部・中学部における児童生徒の学習評価及び指導要録の改善等について(通知)」平成28年7月29日[ONLINE]http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/1376204.htm(参照2018/04/09)