- 平成29年告示の中学校学習指導要領「総合的な学習の時間」の目標は,どのようなものでしょうか。
- 中学校総合的な学習の時間では,「探究的な見方・考え方を働かせ,横断的・総合的な学習を行うことを通して,よりよく課題を解決し,自己の生き方を考えていくための資質・能力」の育成を目指します。
各教科等における見方・考え方を総合的に働かせたり総合的な学習の時間に固有な見方・考え方を働かせたりする探究的な見方・考え方を働かせ,問題解決的な活動を発展的に繰り返す探究的な学習が大切です。
探究的な学習の過程は,総合的な学習の時間の本質です。
探究的な見方・考え方とは,
各教科等における見方・考え方を総合的に活用して,広範な事象を多様な角度から俯瞰して捉え,
実社会・実生活の課題を探究し,自己の生き方を問い続けるという総合的な学習の時間の特質に応じた見方・考え方です。
掲載の趣旨
平成29年告示の学習指導要領では,資質・能力や内容などの全体像を分かりやすく見渡せるよう,枠組みが大きく見直され「学びの地図」として整理されました。
その趣旨に添い,本稿では,解説本文を次のように編集しています。
・ 目標解説の内容が捉えやすいように原文を装飾
・ 他教科等・他学校種の目標や解説が比較しやすように編集
具体的には,本文は原文通りで,次のように編集しています。
・ 各教科等の目標の解説を共通した章立てで構成
・ 学校種間の対応する内容についてリンクで移動 など
掲載の趣旨の詳細は,下のボタンより参照できます。
なお,本稿は,「文部科学省ウェブサイト利用規約」(2018年3月1日に利用)に基づいて,原本を加工し作成しています。
小学校・中学校各教科等の目標の解説 「小・中学校「教科等の目標解説を縦横に読む」シリーズ」は,下のボタンより閲覧できます。
中学校「総合的な学習の時間」の目標
1 目標
(1)目標
総合的な学習の時間のねらいや育成を目指す資質・能力を明確にし,その特質と目指すところが何かを端的に示したものが,以下の総合的な学習の時間の目標である。
探究的な見方・考え方を働かせ,横断的・総合的な学習を行うことを通して,よりよく課題を解決し,自己の生き方を考えていくための資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
(1) 探究的な学習の過程において,課題の解決に必要な知識及び技能を身に付け,課題に関わる概念を形成し,探究的な学習のよさを理解するようにする。
(2) 実社会や実生活の中から問いを見いだし,自分で課題を立て,情報を集め,整理・分析して,まとめ・表現することができるようにする。
(3) 探究的な学習に主体的・協働的に取り組むとともに,互いのよさを生かしながら,積極的に社会に参画しようとする態度を養う。
※小学校総合的な学習の時間の目標と中学校総合的な学習の時間の目標は,共通。
※ 平成20年中学校学習指導要領「総合的な学習の時間」目標
「横断的・総合的な学習や探究的な学習を通して,自ら課題を見付け,自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,よりよく問題を解決する資質や能力を育成するとともに,学び方やものの考え方を身に付け,問題の解決や探究活動に主体的,創造的,協同的に取り組む態度を育て,自己の生き方を考えることができるようにする。」
※ 平成10年中学校学習指導要領 第1章総則 第4総合的な学習の時間の取扱い
1 総合的な学習の時間においては,各学校は,地域や学校,生徒の実態等に応じて,横断的・総合的な学習や生徒の興味・関心等に基づく学習など創意工夫を生かした教育活動を行うものとする。
2 総合的な学習の時間においては,次のようなねらいをもって指導を行うものとする。
(1) 自ら課題を見付け,自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,よりよく問題を解決する資質や能力を育てること。
(2) 学び方やものの考え方を身に付け,問題の解決や探究活動に主体的,創造的に取り組む態度を育て,自己の生き方を考えることができるようにすること。
3 各学校においては,2に示すねらいを踏まえ,例えば国際理解,情報,環境,福祉・健康などの横断的・総合的な課題,生徒の興味・関心に基づく課題,地域や学校の特色に応じた課題などについて,学校の実態に応じた学習活動を行うものとする。
4 各学校における総合的な学習の時間の名称については,各学校において適切に定めるものとする。
5 総合的な学習の時間の学習活動を行うに当たっては,次の事項に配慮するものとする。
(1) 自然体験やボランティア活動などの社会体験,観察・実験,見学や調査,発表や討論,ものづくりや生産活動など体験的な学習,問題解決的な学習を積極的に取り入れること。
(2) グル-プ学習や異年齢集団による学習などの多様な学習形態,地域の人々の協力も得つつ全教師が一体となって指導に当たるなどの指導体制,地域の教材や学習環境の積極的な活用などについて工夫すること。」
総合的な学習の時間・総合的な探究の時間における小・中・高の目標の比較
(2)目標の構成
第1の目標は,大きく分けて二つの要素で構成されている。
一つは,総合的な学習の時間に固有な見方・考え方を働かせて,横断的・総合的な学習を行うことを通して,よりよく課題を解決し,自己の生き方を考えていくための資質・能力を育成するという,総合的な学習の時間の特質を踏まえた学習過程の在り方である。
もう一つは,(1),(2),(3)として示している,総合的な学習の時間を通して育成することを目指す資質・能力である。
育成することを目指す資質・能力は,他教科等と同様に,
(1)では総合的な学習の時間において育成を目指す「知識及び技能」を,
(2)では「思考力,判断力,表現力等」を,
(3)では「学びに向かう力,人間性等」を
示している。
2 柱書
【総合的な学習の時間の特質に応じた学習の在り方】
(1)見方・考え方
【探究的な見方・考え方を働かせる 】
① 探究的な学習
探究的な見方・考え方を働かせるということを目標の冒頭に置いたのは,探究的な学習の重要性に鑑み,探究的な学習の過程を総合的な学習の時間の本質と捉え,中心に据えることを意味している。
総合的な学習の時間における学習では,問題解決的な活動が発展的に繰り返されていく。
これを探究的な学習と呼び,平成20年の「中学校学習指導要領解説 総合的な学習の時間編」において,「探究的な学習における生徒の学習の姿」として,図のような一連の学習過程を示した。
① 日常生活や社会に目を向けた時に湧き上がってくる疑問や関心に基づいて,自ら課題を見付け,
② そこにある具体的な問題について情報を収集し,
③ その情報を整理・分析したり,知識や技能に結び付けたり,考えを出し合ったりしながら問題の解決に取り組み,
④ 明らかになった考えや意見などをまとめ・表現し,そこからまた新たな課題を見付け,更なる問題の解決を始めるといった学習活動を発展的に繰り返していく。
※ ①から④は,総合的な学習の時間の本質である探求学習のプロセス
要するに探究的な学習とは,物事の本質を探って見極めようとする一連の知的営みのことである。
探究的な学習では,次のような生徒の姿を見いだすことができる。
・ 事象を捉える感性や問題意識が揺さぶられて,学習活動への取組が真剣になる。
・ 身に付けた知識及び技能を活用し,その有用性を実感する。
・ 見方が広がったことを喜び,更なる学習への意欲を高める。
・ 概念が具体性を増して理解が深まる。
・ 学んだことを自己と結び付けて,自分の成長を自覚したり自己の生き方を考えたりする。
このように,探究的な学習においては,生徒の豊かな学習の姿が現れる。
ただし,この①②③④の過程を固定的に捉える必要はない。
物事の本質を探って見極めようとするとき,活動の順序が入れ替わったり,ある活動が重点的に行われたりすることは,当然起こり得ることだからである。
※ 「① 探究的な学習」の内容は,小学校と中学校で共通。
② 探究的な見方・考え方の二つの要素
この探究のプロセスを支えるのが探究的な見方・考え方である。探究的な見方・考え方には,二つの要素が含まれる。
各教科等における見方・考え方を総合的に働かせる
一つは,各教科等における見方・考え方を総合的に働かせるということである。
各教科等の学習においては,その教科等の特質に応じた見方・考え方を働かせながら,教科等の目標に示す資質・能力の育成を目指すが,総合的な学習の時間における学習では,各教科等の特質に応じた見方・考え方を,探究的な学習の過程において,適宜必要に応じて総合的に活用する。
例えば,実社会・実生活の中の課題の探究において,
・ 言葉による見方・考え方を働かせること
(対象と言葉,言葉と言葉との関係を,言葉の意味,働き,使い方等に着目して捉えたり問い直したりして,言葉への自覚を高めること)や,
・ 数学的な見方・考え方を働かせること
(事象を,数量や図形及びそれらの関係などに着目して捉え,論理的,統合的・発展的に考えること)や,
・ 理科の見方・考え方を働かせること
(自然の事物・現象を,質的・量的な関係や時間的・空間的な関係などの科学的な視点で捉え,比較したり,関係付けたりするなどの科学的に探究する方法を用いて考えること)
などの教科等の特質に応じた物事を捉える視点や考え方が,繰り返し活用されることが考えられる。
実社会・実生活における問題は,そもそもどの教科等の特質に応じた視点や捉え方で考えればよいか決まっていない。
扱う対象や解決しようとする方向性などに応じて,生徒が意識的に活用できるようになることが大事である。
総合的な学習の時間に固有な見方・考え方を働かせる
二つは,総合的な学習の時間に固有な見方・考え方を働かせることである。
それは,
・ 特定の教科等の視点だけで捉えきれない広範な事象を,多様な角度から俯瞰して捉えることであり,
・ また,課題の探究を通して自己の生き方を問い続けるという,
総合的な学習の時間に特有の物事を捉える視点や考え方である。
本解説第3章で説明するように,探究課題は,一つの決まった正しい答えがあるわけでなく,様々な教科等で学んだ見方・考え方を総合的に活用しながら,様々な角度から捉え,考えることができるものであることが求められる。
そして,課題の解決により,また新たな課題を見付けるということを繰り返していく中で,自分の生き方も問い続けていくことになる。
このように,
各教科等における見方・考え方を総合的に活用して,
広範な事象を多様な角度から俯瞰して捉え,
実社会・実生活の課題を探究し,
自己の生き方を問い続けるという総合的な学習の時間の特質に応じた見方・考え方
を,探究的な見方・考え方と呼ぶ。
それは総合的な学習の時間の中で,生徒が探究的な見方・考え方を働かせながら横断的・総合的な学習に取り組むことにより,よりよく課題を解決し,自己の生き方を考えていくための資質・能力を育成することにつながるのである。そして,学校教育のみならず,大人になった後に,実社会・実生活の中でも重要な役割を果たしていくのである。
なお,総合的な学習の時間において,各教科等における見方・考え方を総合的に活用するということは,社会で生きて働く資質・能力を育成する上で,教科等の学習と教科等横断的な学習を往還することが重要であることを意味している。
・ 系統的に構造化された内容を,それぞれの特質に応じた見方・考え方を働かせて学ぶ教科等の学習と,
・ 総合的な学習の時間において,各教科等で育成された見方・考え方を,実社会・実生活における問題において総合的に活用する教科等横断的な学習
の両方が重要であるということを意味している。
このような教科等の学習と教科等横断的な学習の両方が示されていることは我が国の教育課程の大きな特色であり,今回の改訂では改めてその趣旨を明示している。
※ 「② 探究的な見方・考え方の二つの要素」の解説内容は,小学校と中学校で共通。
※ 【英訳(仮訳)】中学校学習指導要領では,「各教科等の特質に応じた物事を捉える視点や考え方(以下「見方・考え方」という。)」を「discipline-based epistemological approaches, hereinafter referred to as “Approaches”」と訳す。見方・考え方を“Approaches”で代表している。このことを考え合わせると見方・考え方の意味がより一層捉えやすくなる。すなわち,見方・考え方は,物事を認識するときの入り方,近づき方,せまり方と言い換えることができる。
引用:文部科学省「平成29年改訂中学校学習指導要領英訳版(仮訳)」[ONLINE]https://www.mext.go.jp/content/20200227-mxt_kyoiku02-100002604_2.pdf(cf:2020.05.26)
小学校総合的な学習の時間「見方・考え方」※中学校と共通
(2)学び方
【横断的・総合的な学習を行う】
横断的・総合的な学習を行うというのは,この時間の学習の対象や領域が,特定の教科等に留まらず,横断的・総合的でなければならないことを表している。
言い換えれば,この時間に行われる学習では,教科等の枠を超えて探究する価値のある課題について,各教科等で身に付けた資質・能力を活用・発揮しながら解決に向けて取り組んでいくことでもある。
総合的な学習の時間では,各学校が目標を実現するにふさわしい探究課題を設定することになる。
それは,例えば,国際理解,情報,環境,福祉・健康などの現代的な諸課題に対応する課題,地域や学校の特色に応じた課題,生徒の興味・関心に基づく課題,職業や自己の将来に関する課題などである。
具体的には,
・ 「地域の自然環境とそこで起きている環境問題 」,
・ 「地域の伝統や文化とその継承に力を注ぐ人々 」,
・ 「ものづくりの面白さや工夫と生活の発展」,
・ 「職業の選択と社会への貢献」
などを探究課題とすることが考えられる。
こうした探究課題は,特定の教科等の枠組みの中だけで完結するものではない。実社会・実生活の中から見いだされた探究課題に教科等の枠組みを当てはめるのは困難であり,探究課題の解決においては,各教科等の資質・能力が繰り返し何度となく活用・発揮されることが容易に想像できる。
※ 中学校では,小学校の課題例に加えて「職業や自己の将来に関する課題」が例示される。
小学校総合的な学習の時間「学び方」※中学校とほぼ共通
(3)資質・能力
【よりよく課題を解決し,自己の生き方を考えていく】
総合的な学習の時間に育成する資質・能力については,よりよく課題を解決し,自己の生き方を考えていくための資質・能力と示されている。
このことは,この時間における資質・能力は,探究課題を解決するためのものであり,またそれを通して,自己の生き方を考えることにつながるものでなければならないことを明示している。
ここに見られるのは,課題を解決する中で資質・能力を育成する一方,課題の解決には一定の資質・能力が必要となるという双方向的な関係である。
課題についての一定の知識や,活動を支える一定の技能がなければ,課題の解決には向かわない。
解決を方向付ける,「考えるための技法」や情報活用能力,問題発見・解決能力を持ち合わせていなければ,探究のプロセスは進まない。
その一方で,探究を進める中で,知識及び技能は増大し,洗練され,精緻化される。言語能力や情報活用能力,問題発見・解決能力も,より高度なものになっていく。
つまり,既有の資質・能力を用いて課題の解決に向かい,課題の解決を通して,より高度な資質・能力が育成されていくのである。
このような関係を教師が意識しておくことが,よりよい課題の解決につながっていく。
つまり,この時間の学習に必要な資質・能力とは何かを見極め,他教科等やそれまでの総合的な学習の時間の学習において,意図的・計画的に育成すると同時に,総合的な学習の時間における探究的な学習の中でその資質・能力が高まるようにするということである。
よりよく課題を解決するとは,解決の道筋がすぐには明らかにならない課題や,唯一の正解が存在しない課題などについても,自らの知識や技能等を総合的に働かせて,目前の具体的な課題を粘り強く対処し解決しようとすることである。
身近な社会や人々,自然に直接関わる学習活動の中で,課題を解決する力を育てていくことが必要になる。こうしたよりよく課題を解決する資質・能力は,試行錯誤しながらも新しい未知の課題に対応することが求められる時代において,欠かすことのできない資質・能力である。
自己の生き方を考えることは,次の三つで考えることができる。
・ 一つは,人 や社会,自然との関わりにおいて,自らの生活や行動について考えていくことである。
社会や自然の一員として,何をすべきか,どのようにすべきかなどを考えることである。
・ 二つは,自分にとっての学ぶことの意味や価値を考えていくことである。
取り組んだ学習活動を通して,自分の考えや意見を深めることであり,また,学習の有用感を味わうなどして学ぶことの意味を自覚することである。
・ そして,これら二つを生かしながら,学んだことを現在及び将来の自己の生き方につなげて考えることが三つ目である。
学習の成果から達成感や自信をもち,自分のよさや可能性に気付き,自分の人生や将来,職業 について考えていくことである。
総合的な学習の時間においては,こうした形で自己の生き方を考えることが大切である。
その際,具体的な活動や事象との関わりをよりどころとし,また身に付けた資質・能力を用いて,よりよく課題を解決する中で多様な視点から考えることが大切である。また,その考えを深める中で,更に考えるべきことが見いだされるなど,常に自己との関係で見つめ,振り返り,問い続けていこうとすることが重要である。
※ 中学校では,小学校の「自分の人生や将来について考えて」に職業が加わり「自分の人生や将来,職業 について考えて」となる。
3 三つの柱
【総合的な学習の時間で育成することを目指す資質・能力】
総合的な学習の時間で育成することを目指す資質・能力については,他教科等と同様に,総則に示された「知識及び技能」,「思考力,判断力,表現力等」,「学びに向かう力,人間性等」という三つの柱から明示された。
(1)知識及び技能
探究的な学習の過程において,課題の解決に必要な知識及び技能を身に付け,課題に関わる概念を形成し,探究的な学習のよさを理解するようにする。
① 知識
総合的な学習の時間の内容は,後述のように各学校において定めるものである。
このため,従来は,総合的な学習の時間において身に付ける資質・能力として,どのような知識を身に付けることが必要かということについては,具体的に示されてこなかった。
しかし,この時間の学習を通して生徒が身に付ける知識は質・量ともに大きな意味をもつ。
探究的な見方・考え方を働かせて,教科等横断的・総合的な学習に取り組むという総合的な学習の時間だからこそ獲得できる知識は何かということに着目することが必要である。
総合的な学習の時間における探究の過程では,生徒は,教科等の枠組みを超えて,長時間じっくり課題に取り組む中で,様々な事柄を知り,様々な人の考えに出会う。その中で,具体的・個別的な事実だけでなく,それらが複雑に絡み合っている状況についても理解するようになる。
その知識は,教科書や資料集に整然と整理されているものを取り込んで獲得するものではなく,探究の過程を通して,自分自身で取捨・選択し,整理し,既にもっている知識や体験と結び付けながら,構造化し,身に付けていくものである。
こうした過程を経ることにより,獲得された知識は,実社会・実生活における様々な課題の解決に活用可能な生きて働く知識,すなわち概念が形成されるのである。
各教科等においても,「主体的・対話的で深い学び」を通して,事実的な知識から概念を獲得することを目指すものである。
総合的な学習の時間では,各教科等で習得した概念を実生活の課題解決に活用することを通して,それらが統合され,より一般化されることにより,汎用的に活用できる概念を形成することができる。
② 技能
技能についても同様である。課題の解決に必要な技能は,例えば,
・ インタビューのときには,聞くべきことを場合分けしながら計画する技能,
・ 資料を読み取るときには,大事なことを読み取ってまとめる技能,
・ 稲刈りなどの農業体験をするときには,安全に気を付けて体を動かす技能
などが考えられる。
こうした技能は,各教科等の学習を通して,事前にある程度は習得されていることを前提として行われつつ,探究を進める中でより高度な技能が求められるようになる。
このような必要感の中で,注意深く体験を積んで,徐々に自らの力でできるようになり身体化されていく。
技能と技能が関連付けられて構造化され,統合的に活用されるようにもなる。
探究的な学習のよさを理解するということは,探究的な学習はよいものだというようなことを生徒が観念的に説明できるようになることを目指すものではない。
総合的な学習の時間だけではなく,様々な場面で生徒自らが探究的に学習を進めるようになることが,そのよさを理解した証となる。
そのためには,この時間で行う探究的な学習が,学習全般や生活と深く関わっていることや学びという営みの本質であることへの気付きを大事にすることが欠かせない。
一方で,身に付けた知識及び技能や思考力,判断力,表現力等が総合的に活用,発揮されることが,探究的な学習のよさでもある。
学んだことの有用性を実感するためにも,他教科等とこの時間との資質・能力の関連を,生徒自身が見通せるようにする必要がある。
そのためにも,学習を進める中で,その関連を明示していくことや,学習においてどのような関連が実現されたのかを振り返ることなどが考えられる。
※ 「① 知識」及び「② 技能」については,「農業体験」活動が加わる以外は,小学校と中学校で共通。
(2)思考力,判断力,表現力等
実社会や実生活の中から問いを見いだし,自分で課題を立て,情報を集め,整理・分析して,まとめ・表現することができるようにする。
① 探究的な学習の過程において発揮される力
育成を目指す資質・能力の三つの柱のうち,主に「思考力,判断力,表現力等」に対応するものとしては,
実社会や実生活の中から問いを見いだし,自分で課題を立て,情報を集め,整理・分析して,まとめ・表現する
という,探究的な学習の過程において発揮される力を示している。
具体的には,身に付けた「知識及び技能」の中から,
・ 当面する課題の解決に必要なものを選択し,状況に応じて適用したり,
・ 複数の「知識及び技能」を組み合わせたりして,
・ 適切に活用できるようになっていくこと
と考えることができる。
なお,教科等横断的な情報活用能力や問題発見・解決能力を構成している個別の「知識及び技能」や,各種の「考えるための技法」も,単にそれらを習得している段階から更に一歩進んで,課題や状況に応じて選択したり,適用したり,組み合わせたりして活用できるようになっていくことが,「思考力,判断力,表現力等」の具体と考えることができる。
こうしたことを通して,知識や技能は,既知の限られた状況においてのみならず,未知の状況においても課題に応じて自在に駆使できるものとなっていく。
このように,「思考力,判断力,表現力等」は,「知識及び技能」とは別に存在していたり,「知識及び技能」を抜きにして育成したりできるものではない。いかなる課題や状況に対しても,「知識及び技能」が自在に駆使できるものとなるよう指導を工夫することこそが「思考力,判断力,表現力等」の育成の具体にほかならない。
そのためにも,情報活用能力や問題発見・解決能力を構成する個別の「知識及び技能」,「考えるための技法」に出会い,親しみ,必要に応じて身に付けられるような機会を,総合的な学習の時間や他教科等の中で,意図的・計画的・組織的に設けること等の配慮や工夫が重要になってくる。
あるいは,総合的な学習の時間においては,探究的な学習の過程を通すというこの時間の趣旨を生かして,課題を解決したいという生徒の必要感を前提に,その解決の過程に適合する「知識及び技能」を教師が指導するという方法もあり得る。
そのようにして身に付けた「知識及び技能」は,様々な課題の解決において活用・発揮され,うまくいったりうまくいかなかったりする経験を経ながら,学んだ当初とは異なる状況においても自在に駆使できるようになっていく。
このことが,個別の「知識及び技能」の習得という段階を超えた,「思考力,判断力,表現力等」の育成という段階である。
② 探究のプロセス
このような資質・能力については,やり方を教えられて覚えるということだけでは育まれないものである。
実社会や実生活の課題について探究のプロセス(①課題の設定→②情報の収集→③整理・分析→④まとめ・表現)を通して,生徒が 実際に考え,判断し,表現することを通して身に付けていくことが大切になる。
課題の設定
実社会や実生活には,解決すべき問題が多方面に広がっている。その問題は,複合的な要素が入り組んでいて,答えが一つに定まらず,容易には解決に至らないことが多い。
自分で課題を立てるとは,そうした問題と向き合って,自分で取り組むべき課題を見いだすことである。
この課題は,解決を目指して学習するためのものである。その意味で課題は,生徒が解決への意欲を高めるとともに,解決への具体的な見通しをもてるものであり,そのことが主体的な課題の解決につながっていく。
課題は,問題をよく吟味して生徒が自分でつくり出すことが大切である。例えば,
・ 日頃から解決すべきと感じていた問題を改めて見つめ直す,
・ 具体的な事象を比較したり,関連付けたりして,そこにある矛盾や理想との隔たりを認識すること
などが考えられる。また,
・ 地域の人やその道の専門家との交流も有効である。
そこで知らなかった事実を発見したり,その人たちの真剣な取組や生き様に共感したりして,自分にとって一層意味や価値のある課題を見いだすことも考えられる。
情報の収集
課題の解決に向けては,自分で情報を集めることが欠かせない。
自分で,何が解決に役立つかを見通し,
・ 足を運んだり,
・ 情報手段を意図的・計画的に用いたり,
・ 他者とのコミュニケーションを通したりして
情報を集めることが重要である。
調べていく中で,探究している課題が,社会で解決が求められている切実な問題と重なり合っていることを知り,さらにそれに尽力している人と出会うことにより,問題意識は一層深まる。
同一の学習対象でも,個別に追究する生徒の課題が多様であれば,互いの情報を結び合わせて,現実の問題の複雑さや総合性に気付くこともある。
整理・分析
収集した情報は,整理・分析する。
整理は,
課題の解決にとってその情報が必要かどうかを判断し取捨選択することや,解決の見通しにしたがって情報を順序よく並べたり,書き直したりすることなどを含む。
分析は,
整理した情報を基に,比較・分類したりして傾向を読み取ったり,因果関係を見付けたりすることを含む。
複数の情報を組み合わせて,新しい関係性を創り出すことも重要である。
まとめ・表現
整理・分析された情報からは,自分自身の意見や考えをまとめて,それを表現する。
他者との相互交流や表現による振り返りを通して,課題が更新されたり,新たに調べることを見いだしたり,意見や考えが明らかになったりする。
これらの各プロセスで発揮される資質・能力の育成が期待されている。
それは,探究のプロセスが何度も繰り返される中で確実に育っていくものと考えることができる。
※ 「① 探究的な学習の過程において発揮される力」及び「② 探究のプロセス」については,小学校と中学校で共通する。
(3)学びに向かう力,人間性等
探究的な学習に主体的・協働的に取り組むとともに,互いのよさを生かしながら,積極的に社会に参画しようとする態度を養う。
探究的な学習では,生徒が,身近な人々や社会,自然に興味・関心をもち,それらに意欲的に関わろうとする主体的,協働的な態度が欠かせない。
探究的な学習に主体的に取り組むというのは,自らが設定した課題の解決に向けて真剣に本気になって学習活動に取り組むことを意味している。
それは,解決のために,見通しをもって,自ら計画を立てて学習に向かう姿でもある。
具体的には,
・ どのように情報を集め,どのように整理・分析し,どのようにまとめ・表現を行っていくのかを考え,
・ 実際に社会と関わり,行動していく姿として表れるもの
と考えられる。
課題の解決においては,主体的に取り組むこと,協働的に取り組むことが重要である。
なぜなら,それがよりよい課題の解決につながるからである。
総合的な学習の時間で育成することを目指す資質・能力は,よりよく課題を解決し,自分の生き方を考えるための資質・能力である。
こうした資質・能力を育むためには,自ら問いを見いだし,課題を立て,よりよい解決に向けて主体的に取り組むことが重要である。
他方,複雑な現代社会においては,いかなる問題についても,一人だけの力で何かを成し遂げることは困難である。
これが協働的に探究を進めることが求められる理由である。
例えば,
他の生徒と協働的に取り組むことで,学習活動が発展したり課題への意識が高まったりする。
異なる見方があることで解決への糸口もつかみやすくなる。
また,他者と協働的に学習する態度を育てることが,求められているからでもある。
このように,探究的な学習においては,他者と協働的に取り組み,異なる意見を生かして新たな知を創造しようとする態度が欠かせない。
こうして探究的な学習に主体的・協働的に取り組む中で,互いの資質・能力を認め合い,相互に生かし合う関係が期待されている。
また,探究的な学習の中で生徒が感じる手応えは,一人一人の意欲や自信となり次の課題解決を推進していく。
このように,総合的な学習の時間を通して,自ら社会に関わり参画しようとする意志,社会を創造する主体としての自覚が,一人一人の生徒の中に徐々に育成されることが期待されているのである。実社会や実生活の課題を探究しながら,自己の生き方を問い続ける姿が一人一人の生徒に涵養されることが求められているのである。
この「学びに向かう力,人間性等」については,
・ よりよい生活や社会の創造に向けて,自他を尊重すること,
・ 自ら取り組んだり異なる他者と力を合わせたりすること,
・ 社会に寄与し貢献すること
などの適正かつ好ましい態度として「知識及び技能」や「思考力,判断力,表現力等」を活用・発揮しようとすることと考えることができる。
これら育成を目指す資質・能力の三つの柱は,個別に育成されるものではなく,探究的な学習において,よりよい課題の解決に取り組む中で,相互に関わり合いながら高められていくものとして捉えておく必要がある。
※ 「3)学びに向かう力,人間性等」については,小学校と中学校で共通する。
出典:文部科学省「中学校学習指導要領解説 総合的な学習の時間編 第2章 総合的な学習の時間の目標 第1節 目標の構成,第2節 目標の趣旨 」平成29年7http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2017/10/13/1387018_6.pdf8_12_2.pdf(参32018/04/08)を加工して作成
平成29年7月版[ONLINE]http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/05/07/1387018_12_3.pdf(cf:2018-12-20) 確認
資料
【資料1】総合的な学習の時間・総合的な探究の時間における小・中・高の目標の比較
総合的な学習の時間・総合的な探究の時間における小・中・高の目標の比較
【資料2】総合的な学習の時間の創設,取扱い
1 総合的な学習の時間について
(1)創設の趣旨
(平成10年7月 教育課程審議会答申より)
「総合的な学習の時間」を創設する趣旨は,各学校が地域や学校の実態等に応じて創意工夫を生かして特色ある教育活動を展開できるような時間を確保することである。
また,自ら学び自ら考える力などの[生きる力]は全人的な力であることを踏まえ,国際化や情報化をはじめ社会の変化に主体的に対応できる資質や能力を育成するために教科等の枠を超えた横断的・総合的な学習をより円滑に実施するための時間を確保することである。
我々は,この時間が,自ら学び自ら考える力などの[生きる力]をはぐくむことを目指す今回の教育課程の基準の改善の趣旨を実現する極めて重要な役割を担うものと考えている。
(2)総合的な学習の時間のねらい
1. 自ら課題を見付け,自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,よりよく問題を解決する資質や能力を育てること
2. 学び方やものの考え方を身に付け,問題の解決や探究活動に主体的,創造的に取り組む態度を育て,自己の生き方を考えることができるようにすること。
3. 各教科等で身に付けた知識や技能等を相互に関連付け,学習や生活において生かし,総合的に働くようにすること(一部改正追加事項)
(3)総合的な学習の時間の学習活動
・ 各学校は,例えば国際理解,情報,環境,福祉・健康などの教科横断的・総合的な課題,児童生徒の興味・関心に基づく課題,地域や学校の特色に応じた課題,自己の在り方生き方や進路について考察する学習活動(高)などについて,創意工夫を生かした教育活動を実施すること。
・ 自然体験やボランティア体験などの社会体験,観察・実験や見学・調査,発表や討論,ものづくりや生産活動など体験的な学習,問題解決的な学習を積極的に取り入れること
・ グループ学習(小中高),異年齢集団による学習(小中),個人研究(高)などの多様な学習形態,地域の人々の協力も得つつ,全教師が一体となって指導に当たるなどの指導体制,地域の教材や学習環境の積極的な活用などについて工夫すること。
(参考)
学習指導要領の一部改正(平成15年12月)
学習指導要領のねらいの一層の実現を図る観点から,学習指導要領の一部改正を実施。総合的な学習の時間については,その一層の充実を図る観点から,1.総合的な学習の時間のねらいとして,各教科等で身に付けた知識・技能を相互に関連付け,総合的に働くようにすることを新たに規定した,2.全体計画を作成することを新たに規定したなどの改正を行ったところ。
出典:教育課程部会 生活・総合的な学習の時間専門部会(第2回)配付資料「資料3 総合的な学習の時間について」平成16年12月13日[ONLINE]http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/021/siryo/1263964.htm(cf:2018-12-13)
2 総合的な学習の時間の取扱い
中学校学習指導要領(平成10年12月告示)第1章総則 第4 総合的な学習の時間の取扱い
1 総合的な学習の時間においては,各学校は,地域や学校,生徒の実態等に応じて,横断的・総合的な学習や生徒の興味・関心等に基づく学習など創意工夫を生かした教育活動を行うものとする。
2 総合的な学習の時間においては,次のようなねらいをもって指導を行うものとする。
(1)自ら課題を見付け,自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,よりよく問題を解決する資質や能力を育てること。
(2)学び方やものの考え方を身に付け,問題の解決や探究活動に主体的,創造的に取り組む態度を育て,自己の生き方を考えることができるようにすること。
3 各学校においては,2に示すねらいを踏まえ,例えば国際理解,情報,環境,福祉・健康などの横断的・総合的な課題,生徒の興味・関心に基づく課題,地域や学校の特色に応じた課題などについて,学校の実態に応じた学習活動を行うものとする。
4 各学校における総合的な学習の時間の名称については,各学校において適切に定めるものとする。
5 総合的な学習の時間の学習活動を行うに当たっては,次の事項に配慮するものとする。
(1)自然体験やボランティア活動などの社会体験,観察・実験,見学や調査,発表や討論,ものづくりや生産活動など体験的な学習,問題解決的な学習を積極的に取り入れること。
(2)グル-プ学習や異年齢集団による学習などの多様な学習形態,地域の人々の協力も得つつ全教師が一体となって指導に当たるなどの指導体制,地域の教材や学習環境の積極的な活用などについて工夫すること。
出典:学習指導要領データベース作成委員会「中学校学習指導要領平成10年12月第1章総則 第4」[ONLINE]https://www.nier.go.jp/guideline/h10j/chap1.htm(cf:2018-12-31)
中学校学習指導要領(平成10年12月告示,平成15年12月一部改正)第1章総則 第4 総合的な学習の時間の取扱い
1 総合的な学習の時間においては,各学校は,地域や学校,生徒の実態等に応じて,横断的・総合的な学習や生徒の興味・関心等に基づく学習など創意工夫を生かした教育活動を行うものとする。
2 総合的な学習の時間においては,次のようなねらいをもって指導を行うものとする。
(1)自ら課題を見付け,自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,よりよく問題を解決する資質や能力を育てること。
(2)学び方やものの考え方を身に付け,問題の解決や探究活動に主体的,創造的に取り組む態度を育て,自己の生き方を考えることができるようにすること。
(3)各教科,道徳及び特別活動で身に付けた知識や技能等を相互に関連付け,学習や生活において生かし,それらが総合的に働くようにすること。
3 各学校においては,1及び2に示す趣旨及びねらいを踏まえ,総合的な学習の時間の目標及び内容を定め,例えば国際理解,情報,環境,福祉・健康などの横断的・総合的な課題,生徒の興味・関心に基づく課題,地域や学校の特色に応じた課題などについて,学校の実態に応じた学習活動を行うものとする。
4 各学校においては,学校における全教育活動との関連の下に,目標及び内容,育てようとする資質や能力及び態度,学習活動,指導方法や指導体制,学習の評価の計画などを示す総合的な学習の時間の全体計画を作成するものとする。
5 各学校における総合的な学習の時間の名称については,各学校において適切に定めるものとする。
6 総合的な学習の時間の学習活動を行うに当たっては,次の事項に配慮するものとする。
(1)目標及び内容に基づき,生徒の学習状況に応じて教師が適切な指導を行うこと。
(2)自然体験やボランティア活動などの社会体験,観察・実験,見学や調査,発表や討論,ものづくりや生産活動など体験的な学習,問題解決的な学習を積極的に取り入れること。
(3)グル-プ学習や異年齢集団による学習などの多様な学習形態,地域の人々の協力も得つつ全教師が一体となって指導に当たるなどの指導体制について工夫すること。
(4)学校図書館の活用,他の学校との連携,公民館,図書館,博物館等の社会教育施設や社会教育関係団体等の各種団体との連携,地域の教材や学習環境の積極的な活用などについて工夫すること。
※ 青文字部分は,平成15年の一部改正による追加・修正箇所
出典:教育課程部会 生活・総合的な学習の時間専門部会教育課程部会(第8回)配付資料 資料4‐2「総合的な学習の時間の現状と課題,改善の方向性」平成18年7月19日[ONLINE]http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/021/siryo/attach/1397936.htm(cf:2018-12-31)